小説 1−11
カラス天狗とオレの卵・2 (R15)
窓は開いてても、網戸は閉まってたハズだった。
いや、それ以前に、侵入防止の鉄格子がハマってる。なのにソイツは、いつの間にかオレの部屋ん中にいて、オレの枕元にトスンと座った。
バサッとデカい翼が羽ばたき、ぬるい風にあおられる。
文机に置いてた書類が1枚2枚風で飛び、畳の上にひらひら落ちる。同時に、空気のカタマリが襲いかかり、一瞬オレの視界を奪った。
「うわっ、てめっ」
とっさに目を閉じると、耳元でくふっと笑われる。
「卵、孵った?」
「孵る訳ねーだろ!」
ぞっとして、思わず喚きながら起き上がると、少年の緩んだ笑顔が見えた。
卵、って。
早朝に渡された不気味な卵。それが金の粒子になり、懐の中にすうっと消えたのを思い出して、鳥肌が立つ。
やっぱアレ、夢じゃなかったのか?
つーか、今もコレ、夢じゃねーの? 少年の背中のデカい翼は、ふぁっさふぁっさと落ち着きなく動いてる。
「大体、何の卵なんだよ?」
そう訊くと、少年はこてっと首をかしげた。
「お、オレとキミ、の、だけど」
って。だから、意味ワカンネーっつの。
「なんでオレとお前のなんだ?」
オレの問いに、うへっと顔を緩める少年。
「あ、愛の、結晶?」
「はあっ!?」
薄明るい部屋ん中で、少年がじわじわ赤面してくのが見える。その様子はちょっと可愛くなくもねーけど、それどころじゃなかった。
愛の結晶、って。理解できねぇ。
「愛?」
真顔で問い返すと、こくりと深くうなずかれた。うなずいた後、きゃあ、と恥ずかしそうに顔を覆ってるけど、意味が分かんねーし、身に覚えが全くねぇ。
率直にそう言うと、少年は「ふえっ!?」ってデカい目を見開いて、それからむうっと唇をとがらせた。
「そ、そんなんじゃ、卵が孵らない、よっ」
デカい目で、オレをじとっと見つめる少年。さっきから笑ったり照れたり怒ったり、何だかすげぇ落ち着きがねぇ。
カラス天狗って、こんなのか?
いや……ホントにカラス天狗なのか?
落ち着きなく揺れる黒い翼、修験者にも似た作りの、真っ黒な衣装。薄茶色の柔らかそうな髪と、頭の上に着けた黒い冠。
「お前って……誰?」
ぽつりと訊くと、「覚えてない、の?」って、更にむうっと拗ねられた。
身に覚えは全くねーけど、なんだかそう責められると、ホントに忘れてるような気がする。
……じゃあ、なんで忘れてんだ?
少年を眺めながら腕組みし、首をかしげてると、むうと拗ねたままだった彼が、しばらくしてニコッと笑みを浮かべた。
「お、覚えがない、なら、体に訊こう」
そんな不穏な言葉と共に、黒の衣装を脱ぎだす少年。
体って、って、ツッコむ間もねぇ。
漆黒の服の下から真っ白な肌が現れて、月明かりしかねーのに、やけに眩しい。
キレイな鎖骨、キレイな肩、薄い胸には薄い色の乳輪が慎ましく飾られてて、自然と生唾を呑み込んだ。
白い裸に似つかわしくねぇ、黒い翼がふぁさっと広がる。
ヤベェって思うのに、身動き取れねーのはなんでだろう?
「阿部隆也」
教えた覚えのねぇ、名前を呼ばれてゾクッとする。
白く細い腕が伸ばされて、布団の上に押し倒され、寝間着の帯がほどかれる。あわせから胸元に手のひらを差し込まれ、さわさわと撫でられた。
別に、くすぐったくも何ともねぇ。何ともねぇけど、なんでかスゴク気持イイ。
はっ、と息を詰めると、くふっと嬉しそうに笑われて、ちゅうっと上からキスされた。
「阿部君……」
小声で色っぽく囁かれ、ぺろっと唇を舐められる。
誘われるまま白い背中を抱き締めると、柔らかな黒い羽根がオレの腕をくすぐった。
深くキスして舌を差し込み、熱い口中をかきまぜると、舌も唾液もウソみてーに甘ぇ。やめとけって思うのに、止まらねぇ。
気付いたら、いつの間にか体勢が入れ代わってて、オレの方が上になっててドキッとした。
「卵の兄弟、作ろう?」
どんな誘い文句だって思ったけど、ささいな疑問は一瞬で霧散し、白い肌だけが目に入る。
甘い吐息に煽られて、体がどんどん熱くなる。
押し倒した少年の背中から、黒い翼がばさっと広がり、オレを両側から包み込む。
いつの間にかオレは、寝間着も下着も全部どこかに脱ぎ捨ててて。少年も裸で。白い脚を淫らに大きく開き、オレの前に全部を惜しげもなく晒してた。
大胆な姿をしてるくせに、白い顔が真っ赤で可愛い。
きゃあ、と恥らいながら、「早、く」ってこそっと誘われて、少年の足に手を伸ばす。
『来、て』
脚に触れた瞬間、そんな風に誘われた情景がふっと頭に浮かんで、ああ、と思った。
初めてじゃねぇ。
なんで忘れてたんだろう? 確かに初めてじゃなかった。
初めてじゃねーなら、遠慮もいらねぇ。
細い腰を引き寄せて、脚を押し割り、慎ましいつぼみを目の前に晒す。そこは、すでに柔らかく濡れてて。
『いい卵、作ろう、ねっ』
可愛くねだられたのを思い出しながら、痛ぇくらいに勃起したモノを、少年にゆっくり突き立てた。
(続く)
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