小説 1−11
覚悟はとっくにできている・後編 (R18)
「出ましょう」
そう言ってシャワーを止めたのは、ベッドでじっくり抱きたかったからだ。このキレイな体のすみずみまで、ゆっくりと味わいてぇ。
キュッと音を立てて降りやむ温水。
途端に少しずつ冷めてく体温。
「体冷やすの、よくねーし」
けど三橋さんは首を振って、オレの建前を否定した。
「さ、最初の時だって、シャ、シャワールームだった、だろ」
裸の腕が、ぺたりとオレに巻き付いた。
水を含んで色を濃くした柔らかな髪。色気が匂い立つようで、心臓の鼓動が速くなる。
「2回目はベッドだったでしょ」
こそりと言い返したけど、首を振って拒まれる。
「今、欲しい」
そう言われたら、望みをかなえるしか選択肢はねぇ。
立ったまま深くキスして、広くもねぇバスルームの壁に押し付ける。
キレイな背中、鍛えられた肩、首筋まで続く筋肉の動き、何もかもが最初ん時と一緒で、強烈に「欲しい」って思った。
「三橋さん……」
肩から背中に手のひらを這わせ、腰を撫で、尻を撫でる。
足を少し開かせ、腰を突き出させると、淡い色のキレイなつぼみがオレの目の前に晒された。
さっきほぐしたソコが、オレを待ってんの分かる。
その無防備な姿に、ああ、って思った。受け入れて貰えてんだ、って。
最初ん時と同じだ。あの時、キスは無理矢理だったけど、セックスは合意だった。そう思いつつ確信できねーでいたけど、今分かった。
猛った肉を押し当てて、つぼみにゆっくりと沈めて行く。求められてるって確信しての挿入は、まだ始まる前からすげー甘美で待ち遠しい。
小刻みに腰を動かして、ず、ず、と彼の中に入ってく。
「は……っ」
息を詰め、挿入に耐えてる姿が悩ましい。
こんな姿、誰にも見せて欲しくねぇ。オレだけのモノだ。独り占めしてぇ。
たまんねぇ気持ちで体重をかけ、残りを一気に押し込める。「ああっ」と仰け反る背中、上擦った声、冷んやり濡れた白い肌、何もかもに煽られる。
動きます、なんて声を掛けるほどの余裕もなくて、黙ったまま突き上げ始めると、間もなく三橋さんが小さく喘いだ。
湯気の立ちこめる白い密室に、2人の息遣いが静かに響く。
狭くて熱い体腔に、きゅうきゅうと締め付けられて、気持ちよさが止まんねぇ。
キツイ。でも気持ちイイ。好きだ。愛してる。
思いを込めて後ろから抱き着き、キレイな胸筋を両手でまさぐる。ぐっと腰を押し付けて穿つと、「んうっ」と甘い声が聞こえた。
「はっ、すげぇ」
すげぇ気持ちイイ。
無我夢中で終わった初回が、今となってはもったいねぇ。あの時この人は、どんな声を上げてたっけ? そんなことも今は思い出せなくて、ただ、快感に酔いしれた。
立ったままの、無理な体勢でのセックス。性急な慣らしと、性急な挿入。
なのにちゃんと欲しがってくれる、三橋さんがすげー愛おしい。
一方通行じゃねぇんだって、今更ながらに感じられて、好きで、もっと喘がせたくてたまんねぇ。
「三橋さん、いつからっ?」
いつからオレを受け入れてくれた?
そんな問いかけも言葉にならず、ひたすら快感を追って腰を揺らす。
ドン、と彼の身体を壁に押し付け、逃げらんねぇよう腕に囲う。
「いつ、からっ?」
息をはずませながら揺さぶりを早め、抜き差しを強くすると、三橋さんの喘ぎがますます高く、甘くなった。
ひときわ高い啼き声が上がり、びゅっと白い壁に白濁が飛び散る。
それと共にきゅうっと粘膜のひだが吸い付いて、オレもたまらず射精した。
はっ、と息を呑み、幸せを噛み締める。
ゆっくり崩れてく三橋さんを抱き締め、そっと身を引き抜いて、振り向かせる。
ぼうっと蕩けた顔にキスをして、抱き合ったまま床に座り込むと、彼の大事な右腕がオレの首に絡められた。
上気した顔を寄せられて、ちゅうっと可愛いキスを貰う。
押し当てるだけのライトキス。唇を割って舌を差し込み、深く繋がるディープキス。荒い息を交わしながら、短く深いキスを2度、3度と繰り返す。
「……いつからっスか?」
抱き合って問いかけると、「何、が?」ってこそりと訊き返された。
「いつから、オレ、片思いじゃなかったんスか?」
快感の余韻を追いながら、目の前の頬を撫で、髪を撫でる。アスリートらしく短く刈られた襟足と、白い首筋がなまめかしい。
色素の薄いデカい目が、快感に潤んだままオレに向けられる。試合前とも、試合中とも、試合後とも違う、素のまなざしがそこにある。
ふひっ、と無防備に笑う顔に、ずきゅんと胸を撃たれた。
すげー好きだ。
「もう、分かんない、な」
素っ気ない返事を残念に思いつつ、「そうっスか」って抱き締める。
溜めた湯に入っても、何しても離れがたい。
高まった気持ちは、風呂から出ても収まんなくて、「今度はベッドで」ってオレから誘った。
「1回や2回じゃ今日、終われそうにねぇんスけど」
裸のままでそう言うと、ふふっと余裕の顔で笑われる。
「若い、な」
からかうような響きが、キャリアの差を思わせて悔しい。オレの存在を身にも心にも刻み付け、オレ以外選べねぇようにしてしまいてぇ。
オレが本気だって、分からせてぇ。
「覚悟してください」
そう言うと、裸のまま水を飲んでた三橋さんが、びゅっと何かを投げてきた。反射的に受け取ると、何もついてねぇ素っ気ない鍵だ。
「これ……」
「ここの鍵。渡しとく、から」
ハッと顔を上げると目が合った。射抜くように見つめられ、不敵に笑われてドキッとする。
思いがけねぇプレゼントに、幸せを噛み締める余裕もねぇ。
臨戦態勢の三橋さんは、たまんなく色っぽくて、強くて、キレイだ。
「キミが望むなら、何度でも覚悟、する、よ」
キッパリと言われて、まっすぐに見つめられて、魂が震える。
ホントに覚悟決めなきゃいけねーのは、もしかしたら、オレの方かも知んなかった。
(終)
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