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小説 1−11
水底の白濁 (R18・病み注意)
アベミハへのお題:『水底の想い』、『染めて染められダメになる』、『ほら、泣かないで、怖くない』
https://shindanmaker.com/258470 より




 この恋は、禁断だ。
 男同士でいくら愛し合ってたって、誰にも歓迎されないのは分かってる。
 きっと理解すらされない。100人に訊けば100人がきっと「やめとけ」って言うんだろう。
 結婚できないし、子供もできない。血を繋ぐこともできない。そもそも誰からも祝福されないだろう関係は、やっぱ歪んでるんだと思う。
 でも、いくら禁断だって思ってても、自分ではどうしようもなかった。
「レン……」
 響のいい声を耳元に落とされるたび、ドキンと心臓が跳ねて心が震える。肌に触れられるだけで体がどんどん熱くなり、ぐずぐずに輪郭が解けて行く。
 阿部君の太く固い肉根に貫かれ、串刺しにされると、何もかも深く考えられなくなっていく。
 好きだって思いも、愛も、執着も。どんなに頑張って水底に沈めても、揺すられる度にかき混ぜられて、まざまざ見せつけられて、囚われる。
 水底の想いは、決して浄化されない澱みたいなモノだ。
 汚くて、変な色で、触れるのにもちゅうちょする。けど、どんなに沈めてもなくなんないんだから、諦めるしかないのかも。

「ふあ、ああ……」
 強く揺すられて、思考がはじける。
 不安と罪悪感が快感の中に溶かされて、「もう、いいや」って思えてくる。目をギュッと閉じて、口を開けて。感じるまま喘いで、彼の体にしがみつく。
「んっ、あっ、あああっ」
 仰け反って首を振ると、背中に腕が回された。
 熱い肌が密着し、言いようのない思いがぐわーっと高まる。悲鳴を上げかけた唇が唇に封じられ、舌をねじ込まれてくぐもった。
 キスされたまま、深く穿たれる。
 ガツガツと奥を突かれ、耐え切れない悲鳴が口中に漏れる。
 阿部君の行為は、いつも激しい。胸に荒れ狂う激情を叩き込むようにオレを揺さぶる。
 パンパンと肌を打つ音を聞かされるのが、どうしようもなく嬉しい。
 不平も不満も、現状を打破しようとするエネルギーも、何もかもをぶつけられてるみたいで、震える。

 激しい行為は快感だけじゃないけど、酷くされるたび愛されてるって感じるんだから、きっとオレも大概溺れてるんだろう。
「レン、気持ちいーか?」
「気持ち、イイっ」
 行為の合間に、何度も訊かれる。
「愛してる」
「オレ、も、愛してるっ」
 言葉を重ねて、唇を重ねる。体を重ねて、鼓動を重ねて、貫かれて深く繋がる。キスの最中に強くされて、たまらずしがみつくこともある。
 オレの反応にいちいち喜び、笑みを漏らす彼が好きだ。
 ぎゅっと強く抱き竦められると、縋られてるみたいで嬉しくなる。
 オレだけが縋ってる訳じゃない。オレだけが溺れてる訳でもない。堕ちるのは一緒。堕ちる先も一緒。

「はあ、レン、レン……!」
 オレの名を呼びながら、荒い息を吐く阿部君。
 響きのいい声がだんだん上ずって、掠れて来てて、たまんなく色っぽい。その声で、もっとオレを呼んで欲しい。誰も知らない声を、オレだけに聴かせて欲しい。
「タカ、ヤ……!」
 好き。
 溢れる思いを込めて抱き着き、彼の背中に爪を立てる。それに応じるかのように、阿部君がオレの首に噛み付いた。
 痛みなんて感じない。快感しかない。
「ああーっ!」
 高く啼いて仰け反ると、腰を強く掴まれて更に激しく突き揺すられた。
 視界がぶれて、声もぶれる。
 口から漏れる嬌声を、もう自分でコントロールできない。激しく揺すられるまま喘ぎ、過ぎた快感にむせび泣く。

 やがて阿部君が、オレの中に白濁を散らした。同時にオレも射精して、2人分の肌を白く汚す。
 奥に出された精液を混ぜるように、引き続き中を擦られて「ふあっ」と喘ぐ。
 阿部君の白に染められるみたい。
 体の奥の深いトコから、染めて染められてダメになる。頭がうまく働かなくて、ただしがみ付いて啼くしかできない。
「もっと……!」
 もっと強く抱いて欲しい。
 もっと酷くしてもイイ。
 今は互いの体温に溺れ、他は何も考えたくない。
 幸せ。幸せ。気持ちよくて幸せ。彼がいて、愛されて、強い腕に抱かれて幸せ。

「好き……」
 上ずった声で告げ、彼の唇にキスをすると、柔らかなそこが笑みを刻んだ。
 周りに認められないことも、許されないことも、理解されないことも、今は何も考えたくない。たった2人で生きてくことが、難しいとか無理とか、分かりたくない。
 体の奥で主張する熱を、この肉を、失くしたくないし奪われたくない。
 未来に絶望したくない。
 愛してる。
「タカヤ……っ」
 嗚咽と共に名前を呼ぶと、まぶたに優しくキスされた。
 溢れる涙を熱い舌に舐め取られ、目元に、頬に、唇にキスされて、再びそれが深くなる。
 胎内を深く穿つ彼の肉が、どくんと脈打つのを感じた。

 ああ、繋がってる。
 ひとりじゃない。

「ほら、泣くな。一緒なら怖くねーよ」
 なだめるように頭を撫でられ、あやすように揺すられる。水底の澱がかき混ぜられ、罪悪感にかられつつ、その汚さに甘んじる。
 強くなりたいと思った。
 阿部君が重圧に押しつぶされそうな時は、一緒にそれを支えたい。世界でたった2人、生きてくのはきっと厳しいだろうけど、一緒なら怖くない。
「タカヤも、泣かない、で」
 こそりと告げると、彼はふっと息を漏らして、「まだ泣いてねーよ」って破顔した。

   (終)

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