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小説 1−11
覚悟はとっくにできている・中編 (R15)
 コンロの使い方、ガス給湯器の使い方を一通り説明して、ガス屋の社員は去ってった。
 風呂の溜め方の説明を受けた後、そのまま溜めることにしたらしい。バスルームからは、かすかに水音が聞こえてる。
 引っ越し業者と同じく、ガス屋を玄関まで見送った三橋さんが、やがてオレの方に戻って来た。
「阿部君……」
 静かに名前を呼ばれて、ゾクッとした。
 2人きりに戻った途端の、この空気は何だろう?
 オレよりも少し低い位置にある、白い顔を呆然と見つめる。三橋さん、と呼び返そうと唇を開くけど、緊張に声が出ない。
 首にかけてた汗ふきタオルを、ぐいっと掴まれて引き寄せられる。
 あっ、と思った時にはキスされてて、ちゅっと音を立てて唇が離れた。

 ニッ、と勝ち誇ったみてーに笑みを見せられると、やられっぱなしじゃいられねぇ。
 胸の奥から熱いモノがこみ上げて、衝動のまま腕を伸ばし、抱き寄せる。
 キスを返し、遠慮なく舌を差し込むと、かすかに「んっ」とうめくのが聞こえた。自分から誘ったくせに、その不慣れな感じが愛おしくて、好きで好きでたまんねぇ。
「風呂が先っスか?」
 掠れた声で問いかけると、ふひっと耳元で笑われた。
 余裕な態度がなんかズルい。悔し紛れにもっかいキスを仕掛け、壁と腕との中に閉じ込める。
 シャツのスソから手を這わせ、汗ばんだ肌をそっとたどると、吸い付くように手のひらに馴染んだ。
 引き締まった腰も背中も、プロのアスリートそのものだ。
 オレだって負けてねぇとは思うけど、やっぱプロと学生じゃ鍛え方が違うし、レギュラーとルーキーとじゃ差も大きい。

「三橋さん……」
 キスをほどいて名を呼んで、もっかい貪欲に舌を絡める。
 酔ってもねぇ、強引でもねぇ、合意を疑わねぇキスは、とんでもなく甘くてくらくらした。
 吐息も唾液も、かすかなうめきも、何もかも甘ぇ。
 長いまつ毛が目の前でわななき、印象的なデカい目を隠す。シャツを脱がせると、白く引き締まったしなやかな体が現れて、ふわりと汗が匂った。
 はっ、と息を呑んだのは、どっちが先だっただろう?
 投げるための右腕、極上の筋肉。オレより少し細い肩幅。胸も、首も、鍛え上げられた男のものなのに、どうしようもなくそそられて、血がたぎる。
『お風呂の用意ができました』
 無粋な電子音声に促されるまま、「一緒に」って風呂に誘うと、黙ったままうなずかれ、バスルームまで腕を引かれた。

 新品の洗濯機が置かれた脱衣所には、新品のバスタオルが用意され、新品のバスマットが敷かれてる。
 競うように服を脱ぎ捨て、湯気の立つバスルームに踏み込むと、シャンプー類まで揃ってて、用意の良さにちょっと焦った。
 今日引越ししたばっかのに、ホント、どんだけ用意がいいんだろう?
 少し頼りなさげだと勝手に思ってたのに、やっぱ大人で、ちょっと悔しい。頼りにされてぇ、認められてぇ。そんな気持ちが湧きあがり、居ても立ってもいられねぇ。
「なんで先に揃えてんスか。頼ってくださいよ」
 真新しい風呂イスに座らせ、真新しいボディソープのロックを外し、手のひらで手早く泡立てる。
「た、頼ってる、よ」
 三橋さんがこそりと言った。
「試合でも、頼りにしてる」

 そんなのお世辞だと思うのに、たった一言が震えるほど嬉しい。
「阿部君のリード、力ある、ね」
 とか。
「一緒に組み、たい」
 とか。
 惚れてる投手にそんなこと言われて、堕ちねぇ捕手はいねーと思う。
「もう、いいっス」
 泡をまとう手のひらを背中に這わせ、肩や腰を撫で上げて、強引に喘がせ、黙らせる。
「んんっ、照れ、た……っ?」
 声を上ずらせながら、ツッコんで来んのやめて欲しい。
 まだまだ余裕なフリで図星をさされ、じわっと顔が熱くなる。一生かなう気がしなくて、それも悔しい。
 手のひらを前に滑らせ、胸と股間に愛撫を移すと、「ああっ」と色っぽい声を聞かされた。

 しなやかな体が仰け反り、体を預けられて、ドキッとする。
 ぎゅっと抱き締めて「好きです」と告げると、三橋さんが上半身だけで振り向いて、ほんのり赤い顔でふひっと笑った。
「マジで好きだから……!」
 もう何度目か分かんねー告白。
 股間にもっかい手を伸ばし、彼の屹立を擦り上げる。
「あっ、……は……」
 抑えた声で善がりながら、三橋さんが体をくねらせる。引き締まった白い体、きっちり筋肉のついた腰が、背中が、快感にほんのり染まって、オレの手淫を受け入れる。
 ひときわ高い声と共に、びゅっと散る白濁。
 指先に垂れたそれを「熱い」とか思う間もなく、首に腕を回された。

 ちゅっ、と重なった軽いキス。
 わずかに弾んだ息に、ぞくぞくと劣情が煽られる。
「腰、上げて」
 形だけの敬語すら忘れて、膝立ちにさせ、尻の谷間に指を埋める。
 三橋さんはやっぱ、抵抗なんかしなくて。
「オレも、好き、だ」
 つぼみに指を埋める直前、かすかな声でそう言って、オレにぎゅっとしがみついた。

(続く)

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あきゅろす。
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