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小説 2
7 竜卵
「だっせぇ、お前、竜卵も知らねーの?」
 元希が指差して、ぎゃははは、と下品に笑った。本当にこいつは、王子って人種か? 顔を背けて、ちっと舌打ちする。そんなオレも、まあ同類だ。

「悪ぃかよ。知らねーよ、教えろ」
「教えて下さい、オニーサマ、だろ?」
 十五センチ以上も身長差のある奴から、肘でうりうりされると、こんなにムカツクもんなんだ。
「ざけんな、オレはまだ兄だって認めてねー」
「じゃー王子殿下さま、と呼べ!」
「呼べるか!」

 秋丸が、横で溜息をついた。
「お前ら、初対面なのに仲いいねー。やっぱ母親違いでも、兄弟だね。二人ともお父上にそっくりだしね」
 すると元希が、秋丸にくってかかる。
「ちっげーし! こいつはともかく、オリャー垂れ目じゃねーっつの」
 親父は垂れ目なのか。垂れ目の何が悪ぃんだ。
「秋丸さん」
 元希に頬を引っ張られながら、秋丸がオレを振り向いた。
「アンタが教えて下さいよ、竜卵って何なんすか?」
 ぎゃーぎゃーと元希が文句を言ったが、無視して続ける。
「レンは、鎖で繋がれてるところを、盗んで連れて来てやったんす。3ヶ月前くらいっす」

 そしてオレは話した。この通り、ずっと無表情で話さない事。たまに水を飲むだけで、食事をしない事。命令しない限り、オレの側を離れない事……。

「うん、昔話に聞くとおりだよね」
 秋丸が、元希に促した。元希はまた元通り、ベッドにえらそうに座っている。
「あー。砂色の肌、琥珀の瞳、金糸の髪。冷たい殻を百日で脱げば、強大な力を約束する……」
「ただね、孵化させる方法は分からないらしいよ。まあ存在自体、珍しいし。伝説の類だし。昨今では、精神的な何かで同じように表情をなくした子まで、竜卵って呼ぶくらいだしね」
 それじゃ、結局何も分かってねーじゃねーか。
「レンを竜卵って思ったのは、何でですか?」
 それすら適当だとか言われたら、怒るぞ、オレ。
「えっ。琥珀の瞳は、竜卵以外にいないよね?」
「知らねーし。大体、よその大陸の人間には、目が青いのとか緑のとか、いるらしいじゃないっすか」

 その辺は、彼らのほうが詳しいんじゃねーか。大陸の真ん中にあるニシウ・ラーより、端っこの海に近い田舎のほうが、他大陸との交流もあるだろう。
「うん、まあ、そうなんだけどね」
 秋丸は苦笑した。説明は難しいらしい。
「ごめん、オレもちょっと本を読んだくらいだから、うろ覚えで。詳しく知りたかったら、城の図書室に行くといいよ」
「図書館なら、ニシウ・ラーにもありますよ」
 オレの言葉に、元希が笑った。
「ばっか、そんな大衆向けの本じゃねーんだよ」
「ニシウ・ラーは、良くも悪くも国民総庶民の国だしね」
 何かひっかかる言い方だな。

 オレはレンを膝に抱いた。冷たい肌、金糸の髪。
 どうにかすれば……孵化をするのか?
 そしたら、笑ってくれるようになるんだろうか。

 秋丸には礼を言って、オレは二人を玄関まで送った。二人とも背が高い。兄弟だというなら、オレもこれくらいまで伸びるんだろうか。
 元希の背中を見つめていて、ふと気付く。
「なあ、あんた剣は?」
「ああ? 剣なら宿に置いてきたぞー……って、何で剣のこと知ってんだ?」
 あ、しまった。
 オレは口をつぐんだ。
 大丈夫、多分バレてねぇ。

 だが、そこへ顔を出しちまうのが、くそフミキだ。
「あ、お客さんもう帰るのー?」
 出て来なくていいのに来やがるから。
「あ、お前、さっきのガキ!」
「じゃあ、もしかして、財布投げて来た黒髪!」
 バレた。

 オレは、罰を受けることになった。

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