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小説 2
6 推定
 案内されたのは、国境警備兵団の詰め所のような所だった。
 多くの兵士を収容してんだから当たり前かも知れねーが、町長の屋敷より広い。
 ただ、華美な装飾なんかは全くなくて、実用的な感じがすんのには好感が持てた。

 オレ達を出迎えてくれた団長は、スゲー渋い顔をしてた。
「尋問、もう終わったんか? 早かったな?」
 オレがそう言うと、団長は渋い顔のままで「はっ」とうなずいた。
 ねぎらってやったのに、ちっとも嬉しそうじゃねぇ。いや別に、感謝なんかして欲しい訳じゃねーし、いらねーけど。
 こんなに早かったってことは、何も喋らなかったか、逆にあっちからベラベラ喋ってくれたか、か。
 団長の機嫌の悪さを考えると……。
「もしかして、あっさり仲間を売りやがったか?」

 皮肉っぽく訊いてやると図星だったみてーで、団長の眉間のしわが深くなった。
「なるほどな」
 あっさり自白しちまうのは、仲間や黒幕に、それ程忠誠心がなかったって証拠だろう。
 手間が省けたって喜んでいーのか、悪いのか。
 拷問に拷問を重ねた末の自白ならともかく、こんな短時間にぺろっと吐かれたんじゃ、複雑だよな。
 罪の意識が軽すぎる。
 そんな部下に裏切られてたとなりゃ、上司としての面目も丸つぶれだ。いや勿論、個人的に正当な理由があったとしても、重罪は重罪なんだけど。

 その辺の美学ってヤツは、よく分かる気がする。
 オレだって、だてにスリ集団のリーダーやってる訳じゃねぇ。
 オレがもし捕まったって、ゼッテー仲間は売らねーし。仲間だって当然そうだと思う。
 フミキもチヨも、チビどもだって、当たり前だけど信頼できた。

 なのに……。
「『全部喋りますから、罪を軽くして貰えませんか?』私にヤツが言った第一声が、それです」
 吐き捨てるように言う団長は、相当頭に来てるらしい。
「はあ? ふざけたヤローだな」
 思わず呆れたように言うと、横にいたうちの副隊長も「全くです」って驚いてた。
「王族を襲撃するなど、下手すれば国際問題です。万が一のことがあれば、極刑は勿論、親類縁者にまで咎が及ぶ可能性もあるというのに!」
 副隊長の言う通りだ。
 幸い、誰にもケガがなかったからよかったけど、万が一直姫にかすり傷1つでもつけられていれば、立派な国際問題になってただろう。
 なのに、自分から取引したがるとか、バカか?
 事の重大さが、分かってねぇようだ。

「それで、どうした?」
 廊下を進みながら訊くと、団長はため息をつき首を振る。
「私の一存では決め兼ねますので」
 ってことは保留か。
 まあ、確かにそうかもな。つっても、オレに全部任されても困るけど。

 それか、交換条件を持ち出す事も、もしかしたら黒幕に唆されてやってんのかも知んねー。
 他国と通じて襲撃の手引きをするだけでも重罪だっつーのに、あの兵士は自分も襲撃に加わってた。
 その場で切り殺されてもおかしくなかったってのに、緊迫感が足りねぇ。
 まさかうまくいくとか思ってたんじゃねーだろうな?
 そんで、その上で、重罪にはならねーと思ってた?

 やっぱ考えれば考える程変だ。ビジョーの息がかかってるとは思えねぇ。
 そんなオレの考えを読んだみてーに、団長が言った。
「黒幕を吐かせることは、残念ながらまだできておりません。が、今回の目的だけは訊き出せました」
 そして団長は、オレの後ろの直姫を見て、またオレに視線を戻し、ぐっと眉根を寄せた。

「王女殿下を誘拐することにより、軍の無能さを知らしめる為だった、と」

「軍の!?」
 思わず、オレは眉をしかめた。驚いた。
 なんでそう来る?
「軍が無能だと証明したとして、その後どうなる? 代わりがいる訳でもねーだろ?」
「いる訳がございません」
 オレの疑問に、副隊長が即答で応える。
 すると、黙って聞いてた直姫が、苦い顔で言った。
「傭兵の売り込み、という可能性はないか? そういう打診を受けたりは?」

「傭兵ですか……」
 苦い顔でそう言うってことは、直姫の国では前にあったって事だろうか?
 打診は、つっても、オレはまだこの国の事、あんまよく知らねーし。
「オレは聞いてませんけど」
 そう言いながら、副隊長の顔を見る。
 けど、そういや彼も元希の従者として、ニシウ・ラーに来てたんだよな。帰りは廉に乗ってすぐだったけど、行きはそれなりの長旅だったハズだ。
 最近の情報は知らねーんじゃねーか?
 なら、知ってんのは誰だ?

 オレ達の視線は、自然、団長に向いた。
 国境警備団の団長は――直姫よりも苦い顔で、オレ達の視線を受け止めた。

「心当たりがございます」

 そして団長は、自分の前の上司に当たる、退役将軍の名を言った。
 それは、あのため池の向こうに見えた屋敷の、「将軍様」のことだった。

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あきゅろす。
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