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小説 2
4 レン
 レンは下町で、荷馬車に鎖で繋がれていたのを、オレとフミキ達がチームプレイで奪って来た子供だ。オレ達はたまに、そういう「人助け」をする。
 同じ孤児でも、いろいろいるって事だな。オレの様に流行り病で親を亡くした奴も多いけど、フミキのように、物心ついた頃から孤児だったって奴も多い。売られた先から逃げた奴も、まあ少なくはない。
 けどレンは、本人が喋らない事もあって、さっぱり事情が分からなかった。

 まず明らかに異人種だ。
 フミキやチヨみたいに、茶色の混じった髪の奴は多いけど、レンのように薄い色の髪はあまり見ない。それに肌の色は、とんでもなく白い。いや白じゃなくて……象牙のような、砂漠の砂のような色。

 だが何より変わってるのは、レンの体質だ。
 喋らない、笑わないだけで、外見は普通の十歳くらいの子供に見える。けど、うちに来てから三ヶ月、たまに水を飲むだけで、他には何も食べねぇんだ。
「なあ、お前は一体、何者なんだ?」
 そう訊くと、レンはうつろな瞳のまま呟く。

「ラン」

 小さな鈴の鳴るような声。もっと聞きたいと思わせる。
 だが、レンが話せるのはこれだけで、それも決まって、自分のことを訊かれた時だけ。だから「ラン」ってのは、こいつの名前だろうと思うんだ。
 でもランって、女の名前だろう? こいつは色白で女顔だが、一応男なので、オレ達は話し合って「レン」と呼ぶ事に決めたんだ。

 オレはノートや筆記具を置いて来ようと、レンを伴って、螺旋階段を駆け上がった。レンは紐で繋がってるかのように、ぴったりオレの後に付いて来る。
 従順な子犬のようだ。オレが「ここで待て」と言わない限り、誰に邪魔されようと、必ずオレの側に辿り着く。
 こんな状態だから、風呂はもちろん、寝るのも一緒だ。というか、レンはオレの側でしか、寝ることができないらしいんだ。

 家主の特権で、オレは以前と同じ自分の部屋を、今でも独りで占有してる。だから最初は、レンと一緒に寝るのはイヤだった。いくらでかいベッドだといっても、他人の体温はわずらわしい。
 けど、寝てみたら逆だった。冷たくすべらかな肌。柔らかな髪。抱き締めるとたちまち眠りに墜ちる。
 そして何より、夢を見る。

 見たことも無いハズの、海の夢を。

「レン」
 オレは囁きながら、キスをした。レンは何の表情も無いまま、それを受けた。何度キスしても、抱いても、レンは言葉を返さない。
 馬鹿げてる。まだ小さな、しかも少年にこんな思いを抱くなんて。
 でもダメなんだ。レンじゃなきゃダメなんだ。何でか知らねぇが、判るんだ。オレとレンは「もう決められた」って。

 最近じゃ、まあお年頃だからかな、フミキはオレ達の仲に気付いたらしい。オレから雄の臭いがするとか言う。
「いいよねー、タカヤはぁ。あー、オレも独りの部屋が欲しいよ」
 理由は判ってる。チヨだ。フミキはチヨに惚れている。チヨもそれを知っている。でもチヨは、毎晩チビどもと一緒に寝るからな。フミキに個室を与えたって、同衾は無理だろ。
 まあ十八になった暁には、成人禁止とか理由をつけて、二人揃って追い出してやってもいいけどな。

 二年後に思いを馳せて、ほくそ笑んでいると、当のフミキが帰ったらしい。階下がちょっと騒がしくなった。
 別に心配してなかったけど、無事に帰れて何よりだ。
 オレはレンにもうひとつキスをして、再び下に降りて行った。
「おう、やばかったな」
 そう声をかけようとして、息を呑む。

 玄関に立っていたのは、さっきの長身男だった。

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あきゅろす。
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