小説 2
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こいつらに心当たりねーかって、国境警備隊の誰かを連れて来て、確認させるかとも考えた。
けど、揉め事はゴメンだったから、やめた。
何か決定的な証拠とか、見つけた訳じゃなかったし。決め付けはよくねぇ。疑わしきは罰せず、ってのが民主主義だと思うしな。
だから代わりに、うちの副隊長を呼びつけた。
「国境警備隊の中に、こいつらの関係者とか知り合いみてーのがいるかも知んねぇ。確認してーから、あっちの隊長と話つけてくんねーか?」
副隊長はビジョー衣装の襲撃者達と、床に土下座したままの町長を見比べ、「はっ」と敬礼して出て行った。
襲撃者どもは、まだぐったりと全員倒れてる。
ヤツらに背を向け、オレ達の側に寄って来た直姫は、落ち着いて見えるけど表情が固い。
安心させてやりてーけど、何も解決してねーし。まさか、廉にするみてーに頭を撫でてやる訳にもいかねーから、せめてどっしりしてようと思う。
そう考えて脳裏に浮かぶのが、あのバカ兄貴だってのはちょっと腹立たしかったけど。
「あんたも、もういーぜ」
町長のヒジを掴んで立たせ、念のためにもっかい訊く。
「こいつらに見覚えはねーんだな?」
オレの言葉に、町長はゆっくりとそいつらに近付いた。無理もねぇけど、腰が引けてる。
見張りに付いてた兵士が、連中の顔をよく見れるようにと、そっとランプを近付けた。
その瞬間、1人の眉が微かに動いたのを、オレは見逃さなかった。
目覚める直前なのか、気絶したフリか? それとも、こっちの様子をうかがってんのか?
注意を促そうと近くの兵士に目くばせしたら、言われるまでもなく気付いてたみてーで、小さくうなずかれた。
頼もしくて笑える。
国境警備兵は、近衛兵に次ぐエリートだとか副隊長は言ってたけど……やっぱ、それなりの差はあるんじゃねーかと思いたくなる。
国境警備兵の中にも、スゲー優秀なのはいるかも知んねーし、近衛兵の中にも、カスみてーのがいるかも知んねーのは分かってる。けど、なんつーか、緊張感が違う気がした。
「申し訳ございません、殿下。よく分かりません」
町長が、おどおどしながら正直に答えた。見覚えねーとかじゃなくて、分かんねーって。
「そうか」
まあ、ランプの明かりって結構暗いしな。自分に近い人間じゃねーと、見分けつかねーのも仕方ねーか。
と、そうこうしてる内に、副隊長が戻って来た。
思ったより早ぇ。
「失礼いたします!」
副隊長は大きな声でそう言って、部屋の中に入って来た。
オレを見てビシッと敬礼する。
「連れて参りました」
「おー、あんがとな」
オレは礼を言って、昼間オレに挨拶して来た、警備隊長をじっと見た。
隊長は、何があったかを聞いてたらしく、片ヒザを立て、神妙にひざまずいている。
「ご叱責は何なりと」
潔いセリフに、何か知ってんのかと思ったけど……単に、職務上の事だったらしい。
「賊に入られるとは、警備に不備があったとしか思えません。全て私の責任です」
どんな罰でも受ける覚悟、ってのを決めて来たらしい。ランプの頼りねぇ明かりの下でも、緊張してんのがなんとなく分かる。
殴る蹴るとかするように思われてんのか?
全く、毎度の事ながら、こういう態度取られんのは苦手だ。
つっても、まあ、この町では1回大暴れしてっから、そう思われても仕方ねーのか。
「あー、別に叱責する為に呼んだんじゃねーんだ。ただ訊きてーことがあったんだよ」
オレは隊長に顔を上げさせ、立たせて、侵入者に見覚えがねーか訊いた。
「ビジョーの者に知り合いはございませんが」
隊長はためらいながらも、オレに従って侵入者たちに近付いて行く。
ここにいるのはオレ達の他に、王城からついて来た近衛兵ばかり。
国境警備隊に属するのは、この隊長しかいない。
彼が「知らない」と言ったら、それまでになるような気もする。
オレは、さっきうなずきを返した兵士に、もう1度目くばせした。今度もすぐに分かってくれたみてーで、オレに小さくうなずき返す。
さっき、ランプを近付けた時に、眉を動かしたヤツは、まだ目を閉じてだらっとしたままだ。
警備隊長がそいつの前に行く。
ランプのオレンジの明かりを頼りに、襲撃者たちを見分しようとうずくまる。
その瞬間を見計らい、兵士がすっと手を伸ばした。
1人の髪を、ぐいっと掴む。
突然髪の毛を掴まれた襲撃者は――カッと目を見開き、大声で情けない悲鳴を上げた。
「ひああああっ」
ギョッと目を見開いた警備隊長は、そいつの顔を見て、また更に驚いたみてーだった。
「貴様……!」
鋭い声をもらし、絶句する。
それは明らかに、知人を見たような反応だった。
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