小説 2
2 直感
直姫に着替えるよう言って、オレ達は一旦廊下に出た。
集まってた兵士達に、護衛を任せて部屋に戻る。
さっきオレにぶちのめされた男は、兵士に両脇を抱えられ、ぐったりしたままだ。
「尋問できそうか?」
オレは、兵士達に訊いた。
「手引きした奴がいると思う。誰かが部屋を教えたんだ」
頭に浮かぶのは襲撃者の反応。奴らは、オレらを見てマジ驚いてた。
暗殺じゃねーっつーヤツらの言い分を信じるとしたら、直姫を狙った襲撃だったに違いねぇ。元々この部屋は、直姫に用意された部屋だったしな。
そうすると、手引きしたヤツは絞られて来る。
直姫の部屋がどこか知ってるヤツの中で、ビジョーに繋がってそうなヤツ。
つっても、オレら結局よそ者でしかねーし、誰と誰が怪しいかなんてのも分かんねぇ。
町長に訊くしかねーだろうか? 身内に違いねーのに、すんなりと教えるか?
「廉」
オレは後ろを振り返り、側にたたずむオレの竜の顔を見た。
「お前、あの町長をどう思う?」
廉は「う、と」と首をかしげ、それから何かを思い出すように、琥珀の瞳を宙に向けた。
「あの人、ユウト君の心配、してた、よね?」
「ああ」
昼間の会話を思い出す。全くこいつは、聞いてねーようで聞いてるなと感心する。
「無事って聞いてホッとして、た。いい人、だ」
きっぱりと廉が言った。
ニンゲンはそんな単純に、善と悪とに判断できる存在じゃねーけど。いい人だって、悪いコトしちまうのがニンゲンだけど。
でも、廉がいい人だと言うなら、大丈夫な気がする。
オレは1つうなずいて、兵士に頼んだ。
「町長を呼んで来てくんねーか? 話がしてぇ」
兵士が「はっ」と敬礼して部屋を出る。
それと入れ違いに、廊下で女の声がした。
「何だ?」
戸を開けて廊下を覗くと、そこにいたのは直姫の侍女だ。
「姫様がご指示をお待ちでいらっしゃいます」
「あー」
という事は、着替えがすんだんだろうか?
一瞬悩む。こっちに来て貰うか、オレがあっちに行くか。
けど、次にまた襲撃とかされたら怖ぇーし。護る為には、やっぱ近くにいて貰った方がいい。
「こっちの部屋に、ご足労願いてーんだけど」
オレがそう言うと、侍女は優雅に一礼して、短い距離を戻って行った。
直姫が姿を見せたのは、それからすぐだった。
「すみません、姫」
目礼すると、直姫は片手を上げて鷹揚にうなずき、侍女たちを連れてこっちの部屋に入って来た。
化粧はしていなかったけど、外出着に着替えてる。
いつでも動けるようにって事かな?
一瞬、ビジョーの倉田の屋敷での事を思い出し、オレは苦く眉をひそめた。
「こ奴らか」
直姫は気丈にも、縛られてひとまとめにされてる侵入者たちの前に立った。
「狙われたのは、わたくしなのだな?」
ちらっと視線を向けられ、「はい」とハッキリ肯定する。
直姫は……震えてる。
けど、誰の支えも無くまっすぐに立ち、動揺を抑えようとしてた。
王族だからだろうか? それとも、元希がこの場にいねーからかな? どっちにしろ、オレが口出すコトじゃねーけど。
やがて間もなく、夜着の上に上着だけ羽織って、町長もやって来た。
なんで呼ばれたのか、何も聞かされてなかったらしい。町長は襲撃者を見て一気に蒼白になり、ドシャッとその場に土下座した。
「こ、こ、こ、こ、これは……」
激しくどもりながら、町長は床に頭をこすり付ける。
別に、土下座なんかして欲しい訳じゃなかったから、オレは単刀直入に訊いた。
「何か知ってるか?」
「い、いいいいえ、誓って何も!」
町長は床に頭を付けたまま、でも、叫ぶようにそう言った。
嘘は言ってねぇような気がする。
……って、直感に自信があるって訳でもなかったけど。
「この部屋に、直姫が寝るって知ってんのは、あんた以外で誰だ?」
オレの質問に、町長は考えながらゆっくりと答えた。
「私の側近と、後は……警備の者だけだと思われます」
「警備って……」
国境警備兵、か?
思い付いた途端、ざわっと胸が騒いだ。
まさか、と思う。思うけど。
「おかしくないか?」
縛られた襲撃者たちの前で、直姫が言った。
「ビジョーの手の者が、こんなハッキリ自国の者と分かる衣装を着るか?」
言われてみりゃ確かにそうだ。
ここはトーダ・キタなんだから、トーダ・キタの服を着て潜むだろう。わざわざ正体を明かす意味がない。
直姫がこっちを振り向いた。
「ビジョーでなければ、誰のしわざだ?」
それには即答できなかった。
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