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小説 2
1 交換
 意外にも、住人達は歓声を上げて、オレ達を出迎えた。そしてオレと廉の顔を見ても、逃げたりはしなかった。あんな怖がらせたっつーのに、どしたんかな?
 取り敢えず、町長には謝っておいた。
「この間は、色々暴れちまって悪かったな」
「いいえ、とんでもございません、殿下! その節は、お忍びでとはいえ、お見苦しい様をお見せしまして、申し訳ございませんでした」
 いや、見苦しかったんは兵士だし、ってことは、その雇い主側である、オレの方が謝るべきじゃねーか?
「あの後、どうだ?」
 尋ねると、最近は国境警備兵も、真面目に巡回してるらしい。突然来て突然帰ったオレ達が、またいつ突然現れるか、警戒してたようだ。
 それにオレ達が、都で噂の竜王子なんじゃないかって推測されてて、そのオレの言動が、どうも注目されてたらしい。

 オレ、何か偉そうなこと言ったかな?

「ところで失礼ながら、あの時に殿下がお連れになった兄弟は、今どちらに?」
「あー、ユウトと弟か。今、城下町にいる。住んでる場所は知らねぇが、材木採取場で会ったぞ。元気そうだった」
 話してやると、町長はほっと笑顔になった。



 その晩は、久し振りに訪問者に悩まされねぇ夜だった。
 オレは町長に用意された主賓室を直姫に譲り、直姫用の客室に寝ることにした。
 町長や村長に部屋を借りることは結構多かったけど、オレらへの部屋の配室は、色々だった。隣国の世継ぎの姫に主賓室、というパターンと、自国の王子で、かつ隊長であるオレに主賓室、というパターンと。
 どっちにしろ、オレは直姫に主賓室を譲るようにはしてたんだけどな。


 寝るといっても、素直に睡眠に入るハズもなくて。オレはいつものように廉をたっぷりと可愛がり、体温の低いすべらかな体を、存分に味わっていた。
「あ、あ、隆也、激、しい」
 廉が目を閉じて、首を振る。柔らかな髪が、シーツに散る。
 オレはいつも激しいつもりだけど。でも何でかな、確かに今日は妙に興奮していた。落ち着かねぇっていうか。
 興奮に誘われるまま、ひたすらに廉を揺さぶる。揺さぶり続ける。前からも、そしてうつむかせて後ろからも。
「あ、ん、う、ん」
 シーツに顔押し付けてんのか、廉の声は少しくぐもり、もう意味もなさずに部屋に響く。

 しんと静まった町長の屋敷。
 聞こえるのはオレの荒い呼吸と、繋げた部分の微かな水音。廉の喘ぎ声、そしてベッドの軋む音………。

 貫いて、揺さぶって、廉を啼かせても、興奮はちっとも収まらねぇ。
 オレに「激しい」とか文句言ってっけど、廉だってそうだ。興奮してる。獣のように腰を振り、オレを深く迎え入れてる。深く感じて、高く啼いてる。
 こんな廉は初めてだ。
「隆也、隆也っ」
 オレにきつくしがみつき、廉が告げた。

「何か、来る」

 ああそうか。と、すんなり思った。
 前触れを感じてんのか。だから胸が騒ぐのか。
 不安じゃねぇ。恐れじゃねぇ。
 ……これは興奮、だ。


 オレはゆっくりと、繋がりを解いた。廉もゆっくりと身を起こした。
 荒事に備えて服を纏う。けど、ズボンをはいたところで、部屋の窓が音もなく開いた。
 次々と部屋に侵入してくる、男が5人。うち一人が松明を掲げ、部屋の中を照らした。
「あっ」
 男達が、オレを見てギョッとした。
 けど、一瞬の後、全員が床に昏倒する。オレに殴り倒されて。
 松明を持った男だけが残り、その手の炎が、大きく揺れる。
 皆、ビジョーの衣装を着ていた。

 オレは残った一人の首に腕を巻き、耳元で訊いた。
「暗殺か?」
「ち、ち、ち、違う!」
 ビジョーの男は首を振った。
「じゃーなんだ?」
 これには応えがねぇ。ただ黙って首を振ってる。
「誰を狙った?」
 自分で言って、はっとする。
 ここ、この部屋は本来は………。
「直姫か!」
 男が、オレの腕の中でびくりと震えた。もう返事したようなもんだ。
 
 騒ぎを聞きつけたのか、ドンドンと乱暴なノックの後、部屋の扉が開けられた。
「失礼します! 殿下!」
 中に入ってきた兵は、部屋を一瞥して息を呑んだ。
 その一瞬の隙に、ビジョーの男が逃げようとする。けど、悪ぃな、オレの反応速度の方が速ぇんだよ! 襟首引っ掴んで引き倒し、加減して腹を蹴っておく。
「こいつらを頼む」
 護衛兵に言い捨て、オレと廉は廊下に出た。
 城ほど広くはねぇ町長の屋敷。主賓室までは数歩の距離だ。
「姫!」
 乱暴にノックして、部屋のドアを開ける。
「ご無事ですか!」
 

 上半身裸のオレ達を見て、部屋にいた侍女たちが悲鳴を上げた。
 そんなキャーキャー言われたら、それ以上奥に踏み込めねぇ。
「姫は?」
 侍女の一人を睨みつけて聞くと、奥のベッドで人影が動いた。
「何事だ?」
 直姫の声だ。ひとまず安心して、息をつく。

「ビジョーの男が5人、オレ達の部屋に侵入しました」
「侵入!?」
 姫の声が、震えてる。そりゃそうだ。杞憂が現実になっちまったんだかんな。
「たまたま部屋を換えていて、ラッキーでした」

 オレの言葉に、直姫は返事をしなかった。



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あきゅろす。
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