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小説 2
7 再訪
 同様の事はその後、何度も起こった。
 部屋に、あらかじめ女が用意されてる事もあったし、廉の分もと言って、二人用意された事もあった。大きな町なんかじゃ十人くらいで、より取り見取りつって言われた事もある。
 女を抱かないらしい、って評判が広まってからは、男が用意されるようになった。
 もういい加減にしろっての。

「悪ぃけど、お呼びじゃねーから」

 廉に似た感じの、金髪に茶色い目をした少年を追い払い、オレは深くため息をついた。
「何とか、うまい方法はねーもんかな」
 香油入りの湯につかりながら、召使に聞いてみる。
「オレがこういう下世話な事を嫌ってるっつってさ、そういう噂を広められたらいーんだけどさ」
 召使は困ったように微笑んだ。
「皆、狙っているのでしょう。血族の者を殿下に差し出し、気に入られれば、妾妃として召し上げられるかも知れない、と。そして御子でも産まれれば……と」
「あー、そんなもんか」
 成程、言われて見れば、そういうモンなんかも知れねー。王族ってのは、普通、そうまでしてお近付きになりてーもんなんかも。

「いっそのこと、ご不興を買うとお手打ちになるとか、恐ろしい噂を流しますか?」
 召使が言った。
「うーん」
 それはちょっと避けてぇな。何の為に愛想笑いして手ぇ振ってんのか、分かんねーしな。
「では逆に、吟遊詩人でもお雇いになりますか?」
 召使の言葉に、びっくりする。
「はあ? そんなん雇ってどうすんだ?」
 町から町へ旅して、歌うたって日銭を稼ぐ連中だろ? あ、噂流して貰うのか? ……って、どんな?

「殿下と竜殿の、運命的な愛の物語などを、大袈裟なほどに美しく歌って貰うのです。誰も間に割り込めない、と思わせるような」

 運命的な愛の物語。
 いや、確かに運命かもとは思うけどさ。そんな言いふらしてぇ訳でもねーだろ。
「うーん」
 歯切れの悪いオレの返事に、召使は頭を下げて微笑んだ。まるで、冗談ですとでも言うように。



 結局何の対策も立てられねーまま、国境まで来ちまった。トーダ・キタ最後の町は、以前オレと廉が暴れた、ユウトの町だ。
 伽の相手がどうとか、ここじゃ心配ねぇだろう。
 だって住人みんな、オレ達の怖さ、覚えてるよな。

「遠路、お疲れ様でございます」
 見覚えのある防具を着けた兵達が、まずオレ達を出迎えた。
 国境警備兵だ。
 オレは向こうの顔を覚えてねーが、向こうは覚えてたみてーだ。オレが声を掛けようと前に出たら、5人くらいが、はっきりと青ざめた。
「おー、そっちもな。分かってんだろーけど、国境警備は重要だかんな」
 オレはニヤッと笑いながら、全員の顔を見回した。普段そんなことしねーもんだから、副隊長が不思議そうにオレを見てる。
「特に今は、嵐の前の静けさって状態だ。まさかこん中に、昼間っから酒呑んで、町で暴れてるような奴はいねーよな?」

 突然、副隊長がきっぱりと言った。
「殿下、恐れながら」
 いつも真面目だが、いつもより真剣な顔だ。
 珍しーな、怒ってんのか?
「わが軍の国境警備兵は、近衛兵に次ぐエリートです。勤務中の飲酒など、ありえません」
 ……いや、あったから言ってんだけど。
 でもまあ、過ぎた事蒸し返すのもダセェしな。
 今からちゃんとやってくれんなら、そんでいいさ。

「そうか、誤解だったか」
 オレは驚いたフリをした。
「疑って悪かったな。国境の守護は、任せてっから。国と国民を頼んだぞ」
「はっ!」
 オレの言葉に、国境警備兵全員が敬礼を返した。


 国境警備兵に先導されながら、町への道を歩いていて、ふと思い出した。
「そういや、この辺で言う『将軍様』って、誰のことだ?」
 副隊長に聞くと、よく知らねーようで、首を傾げてる。すると、国境警備兵の、隊長が言った。
「退官した、わが兵団の前の隊長であります」
「元将軍ってことか?」
 オレの質問に、副隊長がすぐに答えた。
「40年勤続の後、退官した軍人には、全員に名誉将軍という称号が与えられます。名前だけで、一切何の権限もございませんが」
「へー」
 そんなのがあんのか。
 まあ、ニシウ・ラーの大統領だって、任期が終わってもまだ「大統領」って呼ばれるしな。大統領勲章だって、ロカ氏みてーに着けっぱなしでいいし。


 あ、大統領勲章………。
 思い出した。

 オレは胸元を抑え、ぐっと眉根を寄せた。



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