小説 2 6 余裕 いくら竜身の廉の体が大きくても、いくらオレ達の力が強くても、砲身十門を一度には運べねぇ。けど、そのまま埋め戻すのはシャクだから、もっと離れた場所に、バラバラに埋めておいた。 もしかしたら、よく探せばまだまだたくさん埋まってんのかも知んねぇ。 けど、まずは報告が先だ。 オレ達は再び空を駆け、キャンプに戻った。 焦ってたけど、キャンプの場所はすぐに分かった。 暗闇に浮かぶ朱色の焚き火が、はっきりとした目印になってる。仲間の居場所、みたいな気がして、ほっとする。 副隊長は焚き火の横で、心配そうに待っていた。 「お帰りなさいませ、殿下」 オレらの顔を見て頬を緩めるが、悪ぃけど、良くない話をしなきゃなんねぇ。 「大砲を埋めてた」 オアシスで見たことを伝えると、副隊長の顔がみるみる強張る。 「親父とムサシ・ノウにも知らせねぇとな」 「では、早馬で行かせましょう」 ホントは、オレ達がひとっ飛び行った方が早ぇんだが、やっぱ護衛の為にも、ここにいて貰いてぇらしい。 副隊長はてきぱきと指示を出し、取り敢えず親父に知らせる事にした。 「伝言、頼むな」 城に向かう兵に、一言告げると、兵がオレ達に敬礼した。 親父からの伝言を携えて、その兵が戻って来たのは、丸一昼夜経ってからだった。 ――引き続きの監視を求む―― 言われなくても、気になるし行くけど。 でも広い砂漠の中、オアシスはたくさんある。昼間は移動だし、キャンプも心配だし、夜通し徘徊する訳にもいかなかった。 直姫のこと、頼まれてたし。 毎日オレ達は馬に乗り、通過する町や村の住人に愛想を振りまき続けた。 夜は野宿することもあったし、町長や村長の屋敷に招かれることもあった。ベッドで眠れるから、オレはそっちのがありがたかったけど。でも、直姫は逆に落ち付かねぇようだった。 やっぱ、ビジョーでのことがあったからかな。知らねぇ奴の家に泊まんのは、抵抗があるようだった。 「ここは一応、オレらの国ですから。兵だって全員、村の中に入ってるし、武装解除もしてねぇ。大丈夫ですよ」 オレの言葉に、直姫が小さくため息をついた。 「分かっている。わたくしが不安がっては、皆も不安になろうしな。せめて笑顔でいなくてはな」 「そういうものですか」 オレが言うと、「余裕だな」と笑われた。 「そなたも、あまり難しい顔はせぬことだ。ビジョーの動きは気になろうが、毎晩出掛けると、皆も心配する。今は名ばかりのつもりでも、隊長たるもの、中心でどっかりと座っていなくては」 直姫が、大きな黒い目でオレを見つめた。 「元希のように馬鹿になりきれとは言わぬが……あの能天気さに、どこか救われる処もあるのだ」 言われて見れば、そうなのかも知んねー。 元希が焦ればこっちも焦るし、ふざけてんの見れば、何か安心するし。 「そうですね」 オレはうなずいた。 きっと、元希の存在の深さとデカさは、彼女が一番身にしみてんだろうから。 「けれど、そなたらの………」 直姫は一旦言いよどみ、ちらっと廉を見て、ほんのり頬を赤らめた。 「その………仲の良さ、も、また皆を安心させていよう。真に心に余裕がなければ………営みなどできぬだろうしな」 「はあ……?」 返事してから、ようやく言ってる意味が判った。うわ、もしかしてオレら、色々聞かれてる? いや別に、誰に聞かれようが見られようが構わねーし、うちの召使なんか、最中に平気で声掛けたりすっけどさ。 けど、面と向かって言われると、恥ィ。 「はあ、どうも」 オレは苦笑して、取り敢えず礼を言った。 しかし、噂ってのは変な風に広まるもんらしい。 直姫の部屋を辞してから、オレらに提供して貰った客間に戻ろうとすると、部屋の前で、召使が誰かと言い争っていた。 「どうした?」 近付いて聞くと、召使がほっとしたように「殿下」と言った。召使と言い争ってた男が、慌てて廊下にひざまずく。よく見れば、この村の村長だ。横にもう一人連れている。 召使が声を落とし、囁くように言った。 「実は村長殿が、こちらを殿下の伽のお相手に、と」 伽……って………。 「はあっ?」 「お断り申し上げたのですが、どうしても、と」 召使がひそひそと話す。これは多分、気を遣ってんだ……廉に。 だが、そんなことも知らねぇ村長は、ひざまずいたまま、大きな声で言った。 「失礼ながら殿下は、夜の方が大層お強いとか。これはわが娘で、器量は人並みではございますが、生娘でして」 紹介された少女が、恥ずかしそうに顔を上げる。 人並み、と村長は言ったが、それどころか結構な美少女だ。普通なら、お断りする理由もねーだろう。 けど。 「悪ぃけど、間に合ってるから」 オレはため息をついて、ドアを開けた。召使がそのドアを抑え、オレと廉を部屋に入れる。 「え、し、しかし……」 村長が慌てて立ち上がる。 「生娘はお気に召しませんでしたか、ならば……」 「いや、そういう意味じゃねーんだ」 オレは廉の肩を抱き、村長に見せ付けるようにキスをした。 「その女がどうとかじゃねぇ。こいつしか要らねーんだ。オレが抱くのは、後にも先にもこいつだけ。オレの竜、祥洋王だけだ」 オレの言葉に、村長が黙った。 召使はいつものように口元をほころばせ、うやうやしく礼をした。 廉は………二人だけになってから、オレの顔を見て、ふひっと笑った。 [*前へ][次へ#] |