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小説 2
5 失念
「ヒョウも山猫も行っちまったから、もう移動しなくていいぜ」
 オレはゆっくりと副隊長の側まで戻り、からかうように言った。
「動物は心配ねーんだよ、オレらは動物にゃ好かれてんだ。人間の方が怖ぇ。よく警戒してくれ」
 ぐるっと頭を巡らし、周囲の闇を見る。
 ヒョウがうろついてたんなら、周りにまず敵はいねーだろう。けど、今日は月明かりがスゲー弱い。新月に近い、薄い月。
 闇から浮かび上がる、大きな焚き火。火の側に並ぶ、大小のテント。もし、そこにいきなり火器をぶち込まれたら。もし、こんな夜中に、大砲の弾が幾つも幾つも降って来たら。
 いや、火器じゃなくても。例えば火のついた矢でも……不意打ちされれば、充分脅威にはなるんだ。

 それこそが、直姫の心配事らしい。
 そしてそれを杞憂だって、笑い飛ばしてやる事は誰にもできなかった。
 オレ達は軍の事なんて何も分かってないし、隊長なんて、ただのあだ名でしかねーと思ってるけど。でも直姫が、オレと廉がいれば安心するってんなら、できるだけのことはしたいと思う。
 ここに来れなかった、元希の為に。

「まあ、砂漠じゃねーんだからさ、夜の移動は勘弁してくれ」
 オレは廉の肩を抱いて、自分のテントに戻りかけた。けど、何だろ、何か今、引っ掛かった。

「砂漠越え………」

 冷静に思い出す。
 砂漠は夜に移動するんだよな。昼間はとんでもなく暑いから。ビジョーの町で、確かそういう話を聞いたよな。
 じゃあ、ビジョーの連中は……?
「殿下?」
 急に黙り込んだオレを、副隊長が不思議そうに伺ってる。けど、今はそれどころじゃねぇ、確かめねーと。
 ビジョー連合の動きが、妙に静か過ぎたのは、ずっとオレも気になってた。気になってたのに、失念してたんだ。
 くそ。
 あいつら、昼に移動してる訳ねーじゃねーか!
「悪ぃ、ちょっと砂漠まで行って来る。すぐ戻っから。廉!」
 廉は一つうなずき、竜身に戻った。
 ゴォッと風を巻き起こし、廉はオレをすくい上げるように背に乗せて、空高く舞い上がった。


 夜に飛んだのは、初めてだった。
 あっという間に、焚き火が遠ざかっていく。星が次々と流れてく。前方は真っ暗なのに、何でか砂漠の方向は分かった。
 空が暗いから、それ程身を隠すのに注意しなくていい。けど逆に、こっちも砂漠の様子を伺えねぇ。
「オアシスの方に行ってみっか?」
 なるべくゆっくり飛びながら、オレ達は近くのオアシスに向かった。
 オアシスには、幾つかの焚き火の明かりがあった。月明かりの無いのをいいことに、オレ達はすぐ真上まで近付いた。

 当たり前だが、人がいる。
 数十人ぐらい。
 軍としては小規模だが、隊商とか旅行者とかにしては、ちょっと人数が多くねーか。
 降りてもっと近くに行くべきか。それとも、一部始終を見守るべきか。オレが迷ってる間に、連中は大きなスコップを出して、オアシスのすぐ側の砂漠に穴を掘り出した。
 ゴミか何かを埋めんのか? それにしちゃ、大きな穴だ。
 結局降りるのは諦めて、オレ達は穴の上に留まった。もっと近くでよく見たかったが、見つからねーよう、逆に少し遠ざかった。
 穴が掘り上がった後、連中はラクダ2頭の背に渡して運んでいた、黒くて長いものを、一本ずつ丁寧に穴に入れていた。
 全部で十本くらいだったかな。
 その後、丁寧に穴を埋め戻し、連中は散会した。つまり、5,6人ずつくらいの小グループに別れ、四方八方に散っていった。


 連中が全員残らずオアシスを去ったのを見届け、オレ達は穴を掘り返した。
「くそ、やっぱり………」
 オレは舌打ちして、顔をしかめた。

 大砲の砲身が、埋められていた。



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あきゅろす。
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