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小説 2
2 乗馬
 この間の会議の時の正装をまた着て、昼から閲兵式ってのをやらされた。
 つっても、20人ぐらいの小隊だ。
 中には見知った顔があってホッとする。元希らと一緒に連れて来た、生き残りの二人と、秋丸と共にムサシ・ノウに向かった三人。仲が良かったって訳じゃねーけど、初対面よりはマシだ。
 初対面の連中はどいつもこいつも、こわばった顔をこっちに向けてる。
 ……そんな露骨にイヤがんなっつの。


 城の長い外階段の一番上に親父が座り、その下にオレと廉が立つ。階段の両脇には、剣を帯びた軍人がずらっと並び、その合間合間に、槍を持った護衛兵が立っている。
 この間の朝礼と似たような構図だ。つまり、これも儀式だ。ただ違うのは、他の王族や大臣がいなくて、軍人ばっかが揃ってるコト。

「黒晶五星・阿部・隆也だ。こっちはオレの竜、祥洋王・三橋・廉。よろしく頼む」
 オレが言うと、兵達が一斉に敬礼した。
 不満があっても、一応は従ってくれんだな。さすがプロ。
 その他、近衛隊長の訓示とか、親父の一言とかあった後、面倒な儀式は終了になった。


 階段前に残されたのは、オレ達と、オレの部下って事になる副隊長以下、20名の兵士達。
 副隊長に任命されたのは、ラッキーなことに、顔見知りの一人だった。
「あー、あのな」
 オレは起立姿勢をやめ、兵士達に向き直った。 
「分かってっと思うけど、オレ達は空を飛べる。だからホントは直姫を、ムサシ・ノウまでひとっ飛びで連れて行ける。けど、どうもそれじゃマズイらしーんだ。馬鹿げた茶番に付き合わせて悪ぃけど、国の体面の為だ。皆、同行頼むな」
 兵士達がまた敬礼する中、元希の護衛兵だった、副隊長が手を挙げた。

「殿下、ひとつ質問よろしいでしょうか?」
「ああ?」
「馬は、どうされますか?」
「馬……」
 オレは顔をしかめた。忘れてた、オレは馬に乗れねーぞ。
 でも、大丈夫な気もする。今のオレと廉なら。
「練習できっかな?」
 副隊長がうなずき、「では手配いたします」と言った。
「サンキュ、頼むな」
 そう言うと、初対面の兵士達が、少し驚いた顔をした。何だよ、この間から。オレ達って、礼も言わねーような印象かよ?
 オレはこっそり、廉と顔を見合わせた。


 部屋に帰んのも面倒だったんで、副隊長の後について、そのまま厩の方に向かった。一応解散したけど、残りの兵士達も付いて来た。
 オレ達が厩に近付くと、例によって馬達が一斉に静まり、頭を下げた。廉はまた右手を挙げて礼に応えた。初めて見た奴も多かったけど、副隊長たちは知ってっから、当たり前のようにスルーして、厩の中に入ってった。
 やがて副隊長が、白と黒、二頭の馬を連れて来た。
「こちらが殿下の馬、こちらが竜殿の馬になります」
 当然、オレが黒い馬、廉が白い馬だった。馬は二頭とも大人しく頭を下げ、オレ達を待っている。

 廉がにっこりと笑い、白馬の首筋に触れた。馬は見て分かるくらいブルブル震え、うっとりと目を閉じた。
「乗せて、くれるの?」
 廉が訊くと、馬はまた頭を下げ、答えを示した。オレは廉が無事に乗るのを見届けてから、自分の馬に向き直った。
 オレはポン、と馬の首筋を叩いて言った。
「よろしく頼むな」
 すると馬は、白馬と同じようにブルブル震え、頭を下げて目を閉じた。
 恭順と、親愛。
 馬の考えが、何でかな、よく分かる。全くオレ達は、動物には好かれてんだな。
 オレも副隊長の手を借りて、自分の黒馬に乗った。

 まず歩いて見っか?

 心で語りかけると、馬はゆっくり歩き出した。元希の前に乗ってた時とは大違いで、スゲー乗りやすい。廉はもう、楽しそうに馬と駆け回っている。
「楽しそうだな」
 思わず呟くと、馬が肯定の意を示した。
 何か、オレまで楽しくなってきた。

「大丈夫そうですね」
 副隊長が、笑顔で言った。
「おう、あんがとな」
 オレは馬にも「サンキュ」と礼を言い、馬の背を降りた。
「廉、終わりにすっぞ」
「うん」
 廉は少し名残惜しそうだったが、オレに従って、馬を降りた。
「今日はあんがとな。旅のほうもよろしく頼む」
 副隊長に礼を言って、馬の手綱を渡す。
「はっ」
 副隊長が敬礼すんのに、苦笑してうなずき、オレ達は城に戻った。


 部屋に戻った後、召使に湯を用意させて、廉と二人、汗を流した。
「あの、失礼ながら、殿下」
 いつもの召使が、恐る恐る言った。
「少々馬の臭いがきつうございますので、香油を使わせて頂いてよろしいでしょうか?」
「あー? そうか?」
 オレは自分の腕や廉の髪をくんくん嗅いだが、よく分かんなかった。けど、こいつが恐る恐る言うんなら、そうなんだろう。
「まあいいや、任せるよ。悪ぃな」
「いえ……」
 召使は嬉しそうに唇を緩めて、湯に香油を垂らしてくれた。

 お、ちょっとはオレらに慣れたんか?

 試しに雑談を振ってみる。
「そういや、河沿いに住んでる連中は、湯の代わりに大河に入って、汗を流すんだってな」
「はい、その通りでございます」
「最初聞いた時はびっくりしたけどさ。皆でやると、気持ちいいかも知んねーな」
 召使は一瞬黙り、またほんの少し顔を緩めて、「はい」と言った。

 オレの頬も、ちょっと緩んだ。
 それを感じたのか、廉が微笑みながら身を寄せ、オレの首に両腕を絡めた。


 召使が入れてくれた香油が、廉の腕からふわりと香った。

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あきゅろす。
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