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小説 2
1 見舞い
 夕飯の後、食器を片付ける召使に、元希に会えねーかダメ元で訊いてみた。
「伺って参ります」
 召使は一礼して去り、しばらくして戻って来た。
「お会いになれるそうです。ご案内致します」
「サンキュ、頼むな」
 何の気なしに言うと、また驚いた顔をされた。何だよ。昼間の人足連中は、オレ達の正体分かった後も、敬語にはなっちまったけど、フレンドリーだったのにさ。


 あの後、オレ達はイスを勧められて、しばらく連中と話をした。
 話っつーか、色々質問された。
「あの大量の材木は、何に使うんですか?」
「歩兵が募集されてますが、戦争が始まるんですか?」
「どこと戦争ですか? 勝算はありますか?」
「あなた方はこの国の、お味方なんですか?」

 オレは知ってること、話せることを大体連中に教えた。ただ、大砲のことは言わなかった。ニシウ・ラーの恥だし、ムダに恐怖をあおっても仕方ねーし。
 質問は始め、情勢とか先行きのことばかりだった。けど、そのうち、田島が訊いた。
「で、お前らそもそも、この国に何しに来たんだ?」
 
 それ、初めて会った時も訊いてたよな。あん時は何か、答えらんなかったけど、今なら素直に教えてもいーか。

「成人式に呼ばれたんだよ。もうじき16だかんな」
「あー、もうじき成人式やるって第5王子、お前かぁ」
 田島はオレを指差して、ニカッと笑った。
「よーし、そうと分かったら、セイダイに祝ってやっからよ。覚悟しとけ」
「いや、覚悟もしねーし、盛大じゃなくていーし。つか、別に成人式なんてどーでもいんだよ。オレの国、成人は18だしな」
 そう言ってから、はっとする。タジマの目がまた笑ってねぇ。

「お前の国って?」

 声はいつも通りなのに、表情が違うと印象も違う。
 ニシウ・ラーだ……少し前なら即答した。けど、この国も悪くないって思っちまうと、何だかな。オレはラーゼだけど、この国の第5王子でもあったんだな。

「生まれも育ちもニシウ・ラーだが、オレはこの国の王族だ。どっちか一つは選べねーけど、この国にいる間は、ここがオレの国だ。……そんでいいか?」
 それで田島が納得したかどうかは、分からなかった。ただ、周りの連中が笑顔になったんで、ほっとした。



 元希は珍しく、ベッドから降りて、テーブルに座ってた。
「おー、兄上。久し振り」
「ああ」
 弱々しく返事されて、顔が曇る。なんか、スゲー痩せた。けど、顔色は元に戻ってるし、少しは歩けるようになってっし。うん、順調に回復してて良かったな。
 テーブルの上には、スープとパンとサラダ、果物なんかが置かれてた。
「悪ぃ、まだ食事中だったんだな」
「いや、いいさ。ゆっくりしっかり食べねーとな」
 元希は億劫そうに言い、パンをびちゃっとスープに浸した……左手で。それを見て、一瞬で理解した。食事が遅いのは、慣れねー左手で食ってるからだ。スプーンもフォークも、使いにくいんだ。
 オレの沈黙に気付いたのか、元希がふと手を止めた。そして言った。

「あんな。オリャー元から左利きだっての。知らなかったんか?」

「はっ」
 んな訳ねーだろ。でも、元希がそう言うんなら、そういう事にしねーとな。
「もっとさー、肉とか食った方がいーんじゃねーか? なあ廉?」
 廉は眉を下げて元希を見てたが、オレの言葉にこくこくとうなずいた。
「おー、レン。お前も久し振りだな。何か、随分おっきくなってねぇ?」
 廉はにっこり笑って、元希に答えた。
「うん、オレ、名前貰ったから、もう大人だ、よ」
 すると、元希がスプーンを床に落とした。
 カランカラン、と転がるスプーンを、ここの召使がすかさず拾う。そしてすぐに新しいスプーンを用意する。
 元希が、呆然と呟いた。

「レンが喋った」

 側にいた直姫が、元希の頭をグーで殴った。


 
 翌朝、親父がオレの部屋に尋ねてきた。一応先触れがあったんで、湯浴みして着替えることくらいはできた。
 親父は言った。
「三日後に、紅水姫がムサシ・ノウに帰られる」
「ああ、聞いてる」
 それは直姫本人の口から、直接聞いた。彼女のたっての願い事も。

「お前、元希の名代として、彼女の護衛兵団を率いろ」

「はあ?」
 それは初耳だった。
 オレが直姫から頼まれたのは、護衛兵団と一緒に見送ってくれ、って事だったんだけど。だから簡単に引き受けちまったんだけど。
 護衛兵団を率いる? 率いる……って、どうやって?
「お飾りにしかなんねーぞ?」
 呆れて言うと、親父が人の悪い笑みを浮かべた。

「自覚があるなら一人前だ」

 分かってっけど、ムカついた。

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あきゅろす。
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