小説 2 5 閣議 会議室の中央には、大理石のでっかいテーブルがあった。その上には、見たこともねーようなでっかい地図が置かれてる。 その地図に黒い石を置きながら、秋丸がムサシ・ノウの配備について説明した。対するビジョーの方は、白い石で説明してるけど、こっちはひと塊で置かれたまま、全然動かねー。まるで配備が読めねーらしい。 オレは上空からしか見てねーけど、確かに、何の動きもなかった。 静か過ぎて、逆に不気味じゃねぇ? ビジョーにいて感じたのと、随分印象が違うよな。もう話も通じねーって、元希は言ってなかったか? 相当切羽詰まってるって。 あいつらは、竜卵の元の持ち主だ。まさか、ホントに孵化するとか思ってなかったのかも知んねーけど。でも「それらしい」のを連れてるだけで、脅威にはなったかも知んねー。そんだけ、力を欲しがってんのかも知んねー。 今のオレ達の冷遇具合を、ビジョーの奴らに見せてやりてーけど。 でも判ってる。オレ達にはかなりの事ができる。ただ、望んでねーからやらねーだけで。オレは廉がいりゃ、それでいいし。 この力を敵国が持ってたら……確かにイヤかも知れねーよな。 つっても、そんな自慢げな事ぁ言わねーけど。別に発言を求められてるって訳じゃねーし。 地図を囲んであれこれ言ってんのは、さっきから大人ばかりだ。オレは廉と並んで壁にもたれ、その会話を黙って聞いてた。 ムサシ・ノウの軍、およそ一万。火器は無し。対するビジョー、大砲が75基。兵の数、未知数。 なんとかビジョー側の進軍を、砂漠辺りで止めれればいい。そうすれば干上がんのは目に見えてるもんな。けど、開戦もしてねーのに、国境警備をバカみてーに増やす訳にいかねーのか。 増兵ったって、勝手に沸いてくる訳じゃねぇ。徴兵とかしなきゃなんねーよな。 だからムサシ・ノウの頼みだって、確約状みてーなもんだった。取り敢えず念のため、開戦した時には援助を頼みたい、と……書状には書かれていたらしい。 断る訳ねーよな。だってこっちは、元希が一時は死にかけてんだ。マジで「殺せ」って言ってたし。 けど、何か様子がおかしくねーか。ノリが悪ィっつーか。「やりましょう!」ってな熱気がねーっつーか。 「援助とは……どのくらいの規模でしょう」 「物資のみですか、人もお望みですか」 「どちらも、と言うのは、いささか高望み過ぎでは」 「しかし、恩を売っておくのも悪くはない」 「幸い、ここ数年は豊作でございますから」 それぞれの発言聞いてて、ため息が出る。 おいおい、ホントやる気ねーんだな。このままじゃ、取り敢えずの援助物資と、それを運んでく一個小隊のみ、の参加になりそうだ。 けどオレだって、軍とか戦争とかに詳しい訳じゃねーし。これは単なる確約だけだし。ムキになって、「そんだけじゃ申し訳ない、もっと援助を」とか熱く語っても仕方ねぇ。 思い出す、血の海。 やっぱもう、戦争はイヤだ。 ぐっと廉の手を握り締めたところで、いきなり話題をこっちに振られた。 「黒晶五星殿下には、異論がございますか?」 親父を始め、大人たちの目が、「発言すんな」と語ってる。 じゃあ聞くなっつの。別に、どうでもいいけどさ。 「兄上の婚約者であることを差し引いても、直姫には良くしてもらった。できるだけ力になりたい」 オレは胸を張り、後ろ手を組んで言った。 元希の名代としてじゃなく、オレ自身の気持ちだけど。でも元希だって、そう願ってるに違いねーだろ。 オレの言葉に、親父はふんと笑った。 「いいだろう、よく分かった」 分かって貰えたんなら上々だ。 [*前へ][次へ#] |