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小説 2
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 昼間の砂漠は殺人的に暑い……って、教えてくれたのは元希だったか、秋丸だったか?
 乾いてるって事は、雲もできにくいってことで、はるか上空からとは言っても、身を隠すのに苦労する。

 オレ達は秋丸に言われた通り、時々こうしてビジョーの動きを偵察に来てた。
 上から見る分に、砂漠には異変がねぇ。不自然な人の移動もねぇし、でっかい荷物を運んでる様子も無かった。

 ビジョーは、あの大砲をどうしたんかな。

 元希の命令で、詳細を調べるっつって残った護衛兵は、当然だけどまだ帰らねー。無事かどうかも分かんねーし、秋丸と違って、顔も気配も覚えてねーから、探しようがねぇ。
 もしかしたら砲身だけで、火薬か弾が揃わなかったんかも知んねーけどさ。
 でも弾は、威力は落ちるけど、石でも代用できる。火薬は……あのロカ氏がついてんのなら、組成がバレてても不思議はねぇし。

 実はオレだって、火薬の組成は知ってる。硝石75、硫黄10、木炭15だ。
 硝石は、便所や床下の土が原料だ。古い豚小屋の地面とか最高らしい。木炭はまあいいとして。問題は硫黄だ。これは火山の火口とかで採れるらしーんだけど、採取場所は全部、押さえられてると言っていいだろう。
 誰も知らねー採掘場があれば別だが、こっそり硫黄を調達すんのはまずムリだ。ましてビジョーは、火山とは無縁の砂漠の国だしな。
 と、考えてみると……大砲のことは、一先ず保留ってことでいいんかな?


 わずかな雲の上から、砂漠を見下ろす。オアシスの上にだけ、薄い雲がかかってた。廉が孵化してなけりゃ、今頃多分、四苦八苦して通ってただろう。
 いや……。
 もうとうに命を落としていたか。運がよくて、ニシウ・ラーに戻っていたか。
 どっちにしろ、ここにはいなかった。

 竜身の廉に心を添わせる。言葉が無くとも、通じ合う。
 廉は地上からの乾いた熱気と、砂交じりの風とを感じていた。過放牧が招いた自然破壊の姿だが、ここにも自然の理が生きている。
 例えば戯れに、川や海の水をここに撒く事もできんだろう。オレ達にはそれができる。できる事を知ってる。
 けど、そんな戯れをためらわせる美しさが、理が、この広い砂漠にはあるみてーだ。


 もしかしたら。そうやって水を撒いて、緑化の手伝いでもしてやれば、戦争なんて起こらねーのかな?



 砂漠を見張った後は、こっそり城下町に降りてみた。
 また古着屋の界隈を覗いて、着替えを幾つか買い揃える。
 タジマに約束した手前、この町じゃ稼げねー。財布の中身は慎重に使わねーとな。まさか親父に、「城下町で買い物すっから小遣いくれ」って言う訳にもいかねーし。

 人の流れに沿いながら、大河の岸辺の方に向かう。石で護岸された河は、季節や天候で多少増減するけど、氾濫なんてことは滅多にねーらしい。
 灌漑設備のお陰なんかな。
 みんなこの大河を愛し、キレイに大事に使ってる。何より、水が淀んでない。
 この国は、やっぱり色々好きになれねーけど、大河の様子だけは別だった。文句無く、スゲー。

 オレは廉と肩を並べて、煌めく水面をじっと眺めた。水の理が生きている。スゲー気持ちいい。廉も気持ちよさそうに、眼を細めてる。
 河の上では、漁師が船に乗って魚を獲ってるようだ。魚の腹が銀に光る。それに群がってた鳥達が、一羽、また一羽と挨拶に来る。廉は薄く微笑んで、右手を掲げて礼を返した。
 
 人が近付く気配がする。でも、振り向かなくても分かった。タジマだ。
「エサでもやってんのかぁ?」
 そりゃ、そう考えるよな。普通は鳥も動物も、挨拶になんか来ねー。オレは軽く手を振って、鳥を追い払った。バッと音を立て、一斉に水鳥が飛び立つ。廉はその様子を、微笑んで見てる。

 オレは肩をすくめて、タジマに言った。
「動物には人気あんだよ、オレ達は」
「人にはねぇのかよ?」
 タジマが、面白そうに訊いた。
 オレ達の隣に来て、しゃがみこむ。

「ねぇみてーだな」

 オレが言うと、タジマは目を見張り……ニカッと笑った。
「そうでもねーぜ」

 だといいけどな、とは、思ったけど言わなかった。



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