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小説 2
2 フミキ
 わざとらしくぶつかる必要も無い程の人ゴミ。ほとんどは国内外からの旅行者だ。観光客に商人達、そして諸外国からの国賓と、その従者。誰も彼もがフトコロ豊かで、どいつもこいつもガードが甘い。
 何度か足を踏まれたが、痛い思いをしたかいあって、学徒用の肩掛けカバンはあっという間に満杯になった。こうなれば長居は無用で、郊外へ続く路地へとゆっくり進む。
 同じく仕事を終えたらしい仲間から、ちらちら視線を貰い、答える代わりにうなずいて見せる。その中にはフミキもいた。

 スリって仕事は、オレみたいに大抵一人でやるもんだ。だが大物を狙う時には、チームプレイも必要になる。フミキはどちらかというと、このチームプレイを得意としていた。

 丁度よいカモが通りかかったらしく、フミキがさっと片手を上げた。それを合図に、仲間がすっと動く。好奇心にかられて、ターゲットの方をちらりと見たが、オレはすぐに視線をそらして背を向けた。
 この業界、何事もじろじろ見るのは御法度だ。

 ターゲットは一目で西国人とわかる、見事な長身の持ち主だった。
 周りより頭ひとつ高いから、すげえ目立つ。しかもそいつみたいに、上等な服でキョロキョロしてるなら尚更だ。それに大体、背中のでかい剣は何なんだ。今どき帯剣なんて、火器を持てねぇ田舎者の証拠だ。
 まあ精々、稼がしてくれ。
 そんな事を考えながら立ち去ろうとしたオレの耳に、鋭い叱声が届いた。振り向けばフミキが、例の長身男に腕をねじり上げられている。

 まずい!

 オレは咄嗟に、ポケットから硬貨のぎっしり入った皮袋を取り出し、全力で投げ付けた。誰かが剣を抜いたらしい、一瞬の光刃。同時に、中の硬貨がジャラジャラと散らばった。
 周囲にいた奴らが、一斉にわっと手を伸ばす。
 せっかくの頂き物は残念だったが、ぼんやり眺めてる訳にもいかない。オレはわざと人ゴミに向かって走り、大通りをジグザグに駆け抜けた。

 どうやら追っ手は来なかったらしい。路地裏の石塀に背を預けて、ほっと息をつく。

 フミキはうまく逃げられただろうか? まあ、あいつは空気を読まないクソだが、何気に要領はいいからな。家に帰れば、案外先に戻ってたりしてな。
 オレは大人しい学徒の顔をして、再び郊外への路地をゆっくり歩いた。

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