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小説 2
5 タジマ
 しばらく市場を歩いてると、古着屋や古道具屋ばかりが並んでる場所に来た。
 ニシウ・ラーではよその通貨も使えるけど、ここじゃどうなんかな? ちょっと心配だったけど、一応聞いたら、使えたみてーだ。金・銀・銅貨の価値も、そう変わったもんじゃねぇ。
 オレは古着屋の店頭をあさって、シャツとズボンを二つずつ買った。

「旅行に来たのかい?」
「あー、まあ、そんなもん」
 古着屋のおばさんと、そんな会話を交わしながら、ふと思いついて聞いてみた。
「戦争の噂とか、聞く?」
「はあー? ないない。そんなよその国の話なんて、噂にもなりゃしないよ」
 よその国……っつーか。
 ちょっと反論しそうになって、やめた。こんな城下町の庶民が、国際情勢なんて気にしてるハズねーしな。

 さすがに人前で、上も下も着替えんのは抵抗あったから、人通りのなさそうな場所に移動する。ちょっと路地裏に入ったら、どっかの店の資材置き場があった。木箱が幾つか積まれてる。
「廉、これ」
 まずはズボンを渡し、自分も着替える。次にシャツ。廉には淡いオレンジ、オレはくすんだ緑だ。ホントは黒とかこげ茶とかが好みだが、淡い色のほうが、この町の人ゴミには混じりやすい。
 オレと廉が、同時に上半身裸になった時……木箱の向こうから、声がした。


「すっげー! なあなあ、背中の、それなんだ?」

 振り向けば、木箱の奥から十人くらいのガキが覗いてる。気配がしなかった。ってことは、多分、同業者だ。よく見れば、さっき逃げてったガキもいる。
「お前ら、見かけねー顔だよな」
 中でも年長らしい、同い年ぐれぇの奴が言った。声は明るくはしゃいでるが、目は笑ってねー。ニシウ・ラーでオレやフミキがそうだったように、こいつもここのリーダーなんだろう。
 スリの。

「ニシウ・ラーだ。でも、別にショバ荒らしに来てんじゃねーんだ。ここでは仕事しねぇ。約束する」

 オレは、そいつの目をしっかり見て言った。そいつは「ふうん」とうなずいて、二カッと笑った。
「ならいいや。で、なあなあ。お前らの背中の、それ、何だ?」


 オレと廉の背中には、対になる竜の紋様がある。廉のは頭を中心に逆時計回り、オレのは時計回りに、渦を巻く竜だった。
 勿論、今までなかったモンだから、多分孵化の瞬間についたんだろうと思う。あん時、背中から熱いパワーみたいな何かが、体の奥に入ってったもんな。
 それ以来、オレの体は色々人間離れしちまった。でも廉と一緒なら嬉しいし、後悔はねーけど。
 さて、どう説明すっかな?

「ニシウ・ラーじゃ流行ってんだぜ」
 取り合えず、適当に嘘をついておくか。どうせ、確かめようもねーし。
「オレはタカヤだ。こいつはレン。こないだこっちに来たばっかなんだ」
 自己紹介すると、そいつは「タジマだ」と名乗った。そして言った。
「こないだ来たんなら、竜見たか?」
「いや……見てねぇ。どんなだった?」

 タジマが応えるより先に、ガキ共が口々に喋った。
「白かったよ!」
「大きかった」
「すごい声したねー」
「風がぶわって吹いたよ」
 わいわい交わされるのは、ガキらしい素直な感想。でもやっぱ、さっき見た絵が気になったんで、一応聞いてみる。
「怖かったか? 悪い奴らだって思う?」

 我ながらバカみてーだよな。他人からどう見えるかなんて、気にしても仕方ねーのにさ。
 けど、タジマが言ってくれた言葉に、ちょっとほっとした。
「悪ぃ奴とは思わなかったな」
 ガキ共もコクコクうなずいてる。それを見て、廉がホッとしたように微笑んだ。可愛い、キスしてー。けど我慢して、肩を抱き寄せる。
 タジマが、また言った。
「あいつら、何しに来たんだと思う?」
 オレはちょっと考えて、応えた。

「自分でも、分かってねーんじゃねーか?」

 レンの肩を抱いたまま、タジマに後ろ手を振り、人ゴミに戻る。待てとは言われなかった。ただ、背中をじっと見られてる気がした。

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