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小説 2
3 助言
     白竜を駆り、雲の間から現れた王子
     その声は天に轟き、その意志は大地も貫き
     矢も槍も恐れず、何者にもひざまずかず
     竜の紋を背に戴き、ただ竜のみを王と呼ぶ
     王子の名を、黒晶五星
     王の名を祥洋王という


 初めてこの城に降り立った時、オレは周りから自分がどう見えてたなんて、気にしてもいなかった。あの時は、とにかく元希を早く医者に見せたかったし、攻撃されてカッとなってた。
 それにあの日は、一度にいろんな事が起こったから、余計なことを考える余裕も無かったよな。
 ビジョーの倉田の屋敷からの脱出。大砲。待ち伏せ。殺し合い。元希の怪我。それに、レンの孵化。

 オレ達、っていうか廉の姿を見て、民衆がパニックになったのは見た。まずいなーと思った。だからあれ以来、こっそり出掛ける時は、気配を消して飛んでる。
 こっそり城を抜け出してるのを、気付かれてっかどうかは微妙だ。行くなとも言われてねーし、言われたって行くけど。オレ達に見張りがつくのは、城の中をうろつく時だけみてーだった。
 ノックして返事のねー時は、あんま部屋にも入って来ねー。寝てるか、寝てなくてもオトリコミ中だったりするし。オレは見られても平気だけど、召使いっつか使用人連中が、見ても平気でいんのは驚いた。恥らってんのは廉だけだ。

「あ、あ、隆、也、あ、ひ、とが見、てる、よ、お」
 揺さぶられながらそんな事言われても、可愛いだけで、こっちは動きを止められねー。見せ付けるみてーに激しくしながら、「湯浴みすっから、湯、持ってきて」とか頼んだりもする。
 竜と通じてる……とか、そういうのが噂になったりもしてたみてーだ。でも事実だし。


 オレにしつこく聞かれないためか、確かめようと出歩かれんのが困んのか。元希の情報だけは、毎朝毎晩伝えられてた。
 元希の容態が徐々に良くなってるって聞いた後でも、オレ達はずっと、部屋に閉じ込められたままだった。まあ閉じ込められるってのは、語弊があるか。自由に行動できない、ってとこだな。
 ただ、失念してるのか黙認してるのかは知らねーけど、窓からの出入りは自由だった。バルコニーもベランダも何も付いてない窓だけど、空を飛べるオレ達には、出入り口さえあればいい。

 姿を消す方法は、よく分からなかった。ただ、気配を消すってのはできた。スリ家業で身に着けた技だ。いても気付かないようにする……意識されないよう、空気に溶ける……例え竜の姿で空を飛んでても。さすがに鳥とか馬とか、動物なんかは誤魔化されてくれなかったけど、人間は騙しやすかった。

 オレ達はそうして、国の内外を飛び回ってた。
 きっかけは、秋丸のことだった。

 倉田の屋敷の前で、別行動になった秋丸は、元希の怪我のことを知らねーハズだ。それに、大砲のことを知らせようと、ビジョーを急いで横断してんだろう。
 忘れてたわけじゃねーけど、部屋に放って置かれっぱなしだと分かってから、ようやく外に出る気になった。城に来て5日目……元希がちょっとだけ、ほんの数秒、意識を取り戻したって聞いた後だった。


 
 秋丸は小さなオアシスにいた。護衛兵たちも一緒に休んでた。そうとう無理したみてーで、ビジョーの砂漠の半分以上を越えていた。
 オレがまず地面に飛び降り、廉が空中で人型になって、後に続いた。オレ達の到着に、最初に気付いたのはラクダ達だった。全部一斉に膝を折り、頭を下げたんだそうだ。


「うわ、隆也君! どうしてここに?」
 秋丸は驚いて、オレと廉とを見比べた。
「え……もしかして……孵化したの?」
 廉がにっこり笑ったのを見て、秋丸は目を丸くした。そしてスゴイスゴイを連発した。
 けれど、もっと大事なことを伝えなきゃなんねー。

「兄がビジョーとの交戦で、右腕失くしました」

 オレは別れた後の事を、かいつまんで秋丸に話した。護衛兵の生き残りが二人だけだったって事も。直姫と元希が、今はトーダ・キタの城にいるって事も。

「オレ達、空を飛べます。ただいっぺんに全員は運べません。秋丸さん、どうします? ムサシ・ノウへ行きますか?」
 秋丸は少し悩んで、うなずいた。
「うん、近くまで連れてってくれるかな? もう砂漠はイヤだ。でも、人目に付かないとこで降ろして。竜と一緒に空から飛んできたら、信用されないからね」
 オレは苦笑した。
「そうなんスよ。オレ、今、城で誰からも信用されてないんス。それどころか、攻撃されたし」
「榛名も色々無頓着だけど、キミもだねー」
 ははは、と秋丸が笑って、「笑ったの久し振りだ」と言った。やっぱり、かなり無理して進んでたらしい。早く知らせなきゃって、焦ってただろうし。

 ムサシ・ノウの国境近くの草原で、秋丸と3人の護衛兵を降ろした。残りはビジョーの情報を集めながら、ゆっくり帰還するらしい。
「キミもできたら、上空からでもビジョーの動きを気にしてて。それと、トーダ・キタの準備の様子も」
 秋丸はオレにそう頼んで、一つ助言をした。

「たまには市民か旅行者のフリして、街や周辺を歩くといいよ。榛名なんか、しょっちゅうだし。案外、いろんなモノが見えてくるよ」


 翌日から、オレ達は町に降り立った。

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