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小説 2
4 禁輸
 廊下のあちこちに、見張りの兵が立っていた。それを元希が、一人で黙々と殴り倒していく。安全を確認した元希の合図で、直姫とオレとレンは、素早く元希の側に寄る。
 元希がオレに、短剣を押し付けた。
「持ってろ」
 持ってたって使えねーぞ。とっさに思ったが、反論してる場合じゃねー。オレは素直にベルトに挿した。腰にグッと重く感じた。

 ようやく辿り着いた玄関口、見張りの兵は二人。
「同時に襲い掛かんぞ。覚悟決めろ。殺すつもりで殴れ」
 元希の言葉に戦慄が走る。オレは黙ってうなずいた。
 身を潜めてそっと近付く。鞘ごと短剣を握り締める。元希が目配せして、身を起こす。
 今だ!
 オレは短剣を振り上げ、頭から振り下ろそうと迫った。とっさに両腕で庇おうと、兵の胴体ががら空きになる。そこを、回し蹴りした。
「ぐはっ」
 よろめいた兵士の首根っこを持ち、顔面に膝蹴りを食わした後、更に後頭部も殴っておく。
「お前、容赦ねーな」
 そういう元希は、スマートに一撃で倒している。やっぱ体格差もあるけど、筋力と腕力が違ぇーんだな。

 庭の外に出ると、トーダ・キタの護衛兵が一人、素早く近付いてきた。
「裏の塀の向こうに、馬を引いてございます」
 そこから兵士が先頭に立ち、暗い裏庭を小走りに行く。裏庭には木も少なく、小屋のようなものが乱立して雑然としていた。何かを積み上げた上から、布で覆ってある小山も幾つかある。それらの陰に身を潜めながら、暗がりを行くと、待機していた味方兵が、手を挙げて合図した。
 そこへ走り寄る前に、一旦物陰で様子を伺う。さっきから目に付く、布を被せた小山だ。オレは何の気なしに布を触って、その正体に気が付いた。

 やべぇ! なんでこんなもんが!?

 驚愕のあまり、一瞬声も出なかった。
 元希の服を引っ張り、振り向かせる。そこに掛けられた黒い布をめくって見せる。小山のように積まれた、鉄の筒。
 いくら周りが暗くたって、判るハズだ。オレは何度か実物を見たことがあるし、間違いようがねぇ。
 ニシウ・ラーにあって、他の国に無いもの。ニシウ・ラーの不可侵に欠かせないもの。国外不出であるハズのもの。ここにあってはならないもの。

 大砲。

 その砲身が、こんなたくさん!
 暗い裏庭を見回す。山は5つくれーはある。ひと山に15基あるから、75基。砲弾は幾つあるんだ? 火薬の量は?
 もし充分な量の弾と火薬があんなら、城一つ落とせるくらいの装備じゃねーか?

 元希も直姫も、絶句してる。先導してた兵士も。
 けど、ぼーっとしてる場合じゃねえ。
「行くぞ」
 元希が促し、オレ達は順番に塀を越えた。一人の兵が馬跳びの馬のように屈み、その背を踏み台にしてよじ登る。まず直姫。元希が尻を押し上げ、補助してやる。次にオレが行くと、レンも同様に付いて来た。
 元希は兵に指示を出し、砲身の正確な数と、砲弾や火薬の様子を探れと残らせたらしい。
 オレ達は元のように2頭の馬に別れて乗り、夜明け前の町を駆け抜けた。

 都の外で、護衛隊と秋丸が待っていた。
「やべーもん見た!」
 元希は秋丸に大砲のことを話し、頼んだ。
「大至急、ムサシ・ノウにこの事伝えてくんねーか。それと、トーダ・キタの親父にも。兵卒じゃ謁見に時間掛かる、貴族のお前が行ってくれ」
「判った、任せろ」
 秋丸は護衛兵を10人程連れ、奪ったらしいラクダに乗り換えて行った。
 オレ達はその反対方向、明るみ始めた東の空に向かって駆ける。馬の尻に鞭を当て、先へ先へと走らせる。

 別に追っ手がいる訳じゃねーけど、妙に不安だった。都を抜けれらて安心、なんてとても思えなかった。元希らも多分、一緒なんだろう。誰も何も喋らない。静かに駆け抜ける黎明の道。
 やがて見えてきた、放牧地。なだらかな丘の向こうから、眩しい朝日が昇り始めた。

 ねっとりと空気を染める朱金の光。それを背負うように影を暗くして。


 ビジョーの軍が待ち伏せをしていた。

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