[携帯モード] [URL送信]

小説 2
1 タカヤ
 気持ちの良い風が、教室の窓から吹き抜けた。紙質の悪いノートがパラパラとめくれ、顔をしかめて肘で押さえる。

「……と、こうして君達未成年には教育を受ける権利が与えられる事になった。よく学校にて勉学を修め、晴れて18歳を迎えれば、君達には更に参政権が与えられ……」

 国民の二大権利に付いて、目前の老教師が熱弁をふるう。まったく年寄りってのは、どうしてこう同じ内容を同じ口調で、何度も繰り返せるんだろう?
 もちろんオレだって、この修学権と参政権が、どれだけ貴重なものかは知ってるさ。何しろこの大陸の中で、これらの権利を全国民に平等に認めている国は、ここ、ニシウ・ラーの他にないからだ。
 そして、何で老教師がこんな話を繰り返したくなるのか、その理由もよく判ってる。だってその参政権を、つい昨日使ったばかりなんだから。

 すなわち大統領選挙。

 前大統領のロカ氏が汚職で失脚し、昨日国民総選挙が行われた。就任式典は一週間後だ。
 オレ的には、ロカ氏は野心家ぽくてエネルギッシュで、結構好きなキャラだったんだが、まあいいさ。お陰で今日は午前中授業。明日から一週間、学校は休みだ。

 首都はすでにお祭り騒ぎで、大通りには屋台も人もあふれている。
 間もなく終業の鐘が鳴り、オレは足早に教室を出た。もちろん大通りに向かうのだ。すると校門の門柱にもたれて、孤児仲間のフミキが待っていた。

「よう、タカヤ、お疲れー」
 ゆるーく手を振るフミキの腹を、軽くグーで殴ると、奴は大げさに痛がって見せる。
「痛ぇー。いつもヒドイよねー」
「うるせえ、このサボり魔!」
「だって、どうせ二大権利の話だけだったでしょー?」
 確かにその通りだったので、答えの代わりに肩をすくめる。が。
「おめーは欠席多すぎ。進級できねーぞ」
「いいよー、別に。学校だって行きたくて行ってる訳じゃないしねー」
 お前がうるさく誘うから仕方なく行くんだよ……とは、口に出されなくても分かってる、フミキの本音だ。

 残念ながら、こいつのように考えてる奴は、少数派じゃない。いくら修学権が保証されてて授業料がタダだといっても、ノートや筆記具には金がいるし、昼飯代だって必要だ。
 そんな金を払うくらいなら、町で仕事を探した方がマシだと主張する連中を、責められないとオレも思う。
 だが、ろくに学校に行ってない奴にはろくな仕事がなく、ろくに金を稼げないのも事実だ。貧しさから抜け出すには、とにかく勉強することが先決だ。

 この国には身分制度なんかないんだから、いつまでもスリや万引きばかりやってないで、成り上がりを目指そうぜ!

 とはいえ、こんな実入りのいい日には、スリ程おいしい仕事もないって思ってしまうけどな。

[次へ#]

1/7ページ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!