小説 2
3 足止め (後半R15くらい?)
砂漠は昼間、殺人的に暑くなるらしい。昼間は休んで、夜の間に移動するのが必須なんだそうだ。
だからこの都に一泊して、翌日の夕方頃に出発の予定だった。まあ、磁石が発明されるまでは、星座でしか方向が分かんなかったんだろうから、そういう利点もあったんかもな。
半分以上の馬を、ここでラクダと交換するとも聞いてた。馬は、自分の飲む水以上の荷物は運べねーんだと。その点ラクダは体が大きく、暑さに強く、砂にめり込まねー足を持ち、あんま水を必要としねー。ただ一つ難を上げれば、歩き方に特徴があるせいで、スゲー揺れるらしいんだ。
乗るのは御免だが、やっぱ実物は見たことねーし、ちょっと興味があった。
あと、次のオアシスまで、余裕を持って三日程度の食料品と水を買い込み、出発に備える。
……そのハズだった。
なのにオレ達は、ビジョーの倉田と名乗った首長の屋敷で、二日目の夜を迎えようとしていた。
ラクダの数が揃わない。
食料の調達が間に合わない。
水がめにヒビがいっている……。
さすがに、元希の笑みから余裕が消えた。オレがレンにするように、直姫を片時も離そうとしなくなった。その直姫も、いつものツンツンぶりを引っ込め、元希に素直に寄り添ってる。
「ビジョーは、ムサシ・ノウの土地を狙ってんだ」
元希が声を潜めて言った。
「次の放牧地にしたいんだよ、草原の国をな」
「わたくしは、求婚されている。ビジョーの首長の中の一人に。元希という許婚がいるのを知っていながらだ」
震える直姫の肩を、元希がそっと抱き締めた。
オレはもちろん、忘れてなかった。ニシウ・ラーの式典で、「ビジョーとうちが揉めている」つって聞かされた事を。そしてつい昨日見た、過放牧の事も。
「随分勝手な国だな」
オレの感想に、元希はうなずいて唇を歪めた。
「ああ、だが連中はそう思ってねー。自分なりの理と正義を持って、行動しようとしてんだ。利害が一致してねーだけで、本来は友好的な国なのにな」
「友好的な国が、出発の邪魔なんかするかよ」
「だから、そんだけ切羽詰ってんだって事だろ。話も通じねー。もう話し合いじゃ、解決しそーにねーな」
話し合いで解決しねーなら、どうすんだ? 戦争か? さすがに頬が強張ってくる。
ニシウ・ラーは一応、永世中立国だかんな。他国を侵略せず、他国に侵略させず、他国の争いに加担せず。ガキの頃からそう叩き込まれて育った、オレ達ラーゼには、戦争なんて遠い世界の事だった。
「今、秋丸が都の外んとこ行ってる。ムサシ・ノウに伝令行かせるってさ」
「逃げねーのか?」
オレの問いに、元希は首を振った。
「準備もねーのに、砂漠越えはムリだ。逃げっとしても、もっかいニシウ・ラーに戻るか……」
「オレはそっちのがいいと思うけどな」
元希も直姫も、考えてる。きっと秋丸も。オレの意見は言った事だし、後はオトナに任せるしかねー。
「決まったら教えてくれ。取り敢えず、寝て待ってる」
オレは直姫に挨拶をし、部屋を出ようとした。その間際、元希が追いかけて来て、耳打ちした。
「もしもん時は、姫を頼む」
もしもん時って、なんだ?
オレは敵に与えられた部屋で、不安を消し去るように、レンを抱いた。
白い体を執拗に舐め、口接けた。
わずかな水しか口にしないレンは、排泄をしない。足の間に潜むつぼみは、ただオレを受け入れるためにある。オレが心を注ぐためだけに。
出会ってから三ヶ月と十日、オレを毎晩受け入れ続けたつぼみが、丁寧に舐める内にほどけていく。オレのために咲いていく。オレはそこに突き立てる。深く貫き、穿ち、オレの形に拓いていく。
揺さぶる。レンの全身を。体ごと、心まで。レンの中心に突き立てたモノで。ただ夢中で。欲しいものはレンだけで。
欲しいものは、レンだけで。
ただ、こいつだけで。
これで何日目だったかなんて、数えてすらなくて。
レンだけを欲した……。
そして見た海の夢に、初めてレンが現れた。
オレ達は共に泳ぎ、魚を追い、底の砂をもてあそんだ。
オレはレンに口接けた。レンは笑って。
笑って?
……言った。
「ナ、ナ、ナ」
ドンドンドンドン!
ドアを叩く音で、目が覚めた。
「逃げっぞ」
元希の声が、ドアの向こうから聞こえた。
オレは慌てて服を着て、レンにも着せた。
レンが小さく呟くのを、走りながら聞いた。
「ナ」
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