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小説 2
8 シガ (後半 R18)
 一瞬、会場が静まった。
 会場中のみんなが、シガ氏とレンの会話を聞いてる。オレ達に、ものスゲー数の視線が集まってる。けどオレは、それどころじゃなかった。

 シガ氏は更にレンに訊いた。オレの方を指差して。
「この少年は何者ですか?」
 レンは答えた。あの鈴の鳴るような声で。

「シュ」


 会場が今度はどよめいた。元希がオレの肩をぐっと掴んだ。オレは何も反応できず、バカみてぇに口を開けてレンを見ていた。
「わたしは何者ですか?」
「ここはどこですか?」
「食事はおいしいですか?」
「暑くないですか?」
 シガ氏は次々に質問したが、それらにレンは、ひとつも答えなかった。結局レンが喋ったのは、「ラン」と「シュ」の二言だけ。
 でも、オレにはショックだった。


 レンがオレのことを「シュ」と呼んだ。
 もちろん嬉しかった。レンはオレのことちゃんと解ってるって。「シュ」って、主、の意味だと思うしな。
 けど、胸を焦がすのは別の思いだ。

 ムカツク。イライラする。腹が立つ。
 なんであんな奴と喋んだよ。オレ以外の声を聞くな。オレ以外に返事すんな。オレ以外の奴を見んな!

 あまりに腹が立ってたんで、シガ氏が立ち去ったのにも気付かなかった。顔にも出しちゃってたみてーで、後で元希に小突かれた。
「あの態度はねーぞ」
「でも、まあ無理ないよ」
 秋丸がフォローしてくれる。
「切れ者っていうより、食わせ者って感じだね」
「しかし前任者よりはマシだろう。就任直後だし、妙な動きもないと信じたい」
 直姫も交えて、元希らはシガ氏とロカ氏の話を始めた。汚職の噂は前からあったし、興味なかった。

 それよりもレンだ。
 オレはレンの手を握り締めた。今すぐ抱き締めたかった。お前はオレのものだと、証を刻んでやりたかった。嫉妬していた。
 レンの冷たい手は、オレを、なかなか冷静に戻してくれなかった。



 それからどうやって祝宴を終え、どうやって迎賓館に帰り、どうやって元希らと別れたのか覚えてねぇ。
 気が付くとオレは、ベッドの上で、裸のレンを組み敷いていた。

 オレのものだ、オレのものだ、うわ言のように繰り返す。小さな体を貫き、突き上げ、無茶苦茶に揺さぶり、精を注ぐ。
「レン、レン」
 名を呼んでも応えない。抱き締めても抱き返さない。オレのリズムで、オレの為すがまま、細い体がガクガク揺れる。
 でも気のせいじゃねぇ。唇が開いてくる。琥珀の瞳が色に濡れる。オレのこと、解ってる。
「レン……」
 オレはレンを抱き起こし、細腰を掴んで穿ちながら、訊いた。
「オレはお前の何だ?」
 初めて訊く問いだった。情事中に初めて聞く声だった。力なく仰け反り、オレに揺らされながら、レンは答えた。
「シュ」
「……シュ」
「……ん…シュ」
 かすかに色が混じったのを感じて、オレはぞくぞく震えた。たまらず深く口接けて、射精した。



 夢を見た。

 オレは海にいた。見たこともねぇ海に。嗅いだことのねぇ匂いを嗅ぎ、触れたことのねぇ波に触れた。
 海の底深く漂う。
 思うままに泳ぐ。
 魚の群れを追い散らす。
 海底の砂を、岩を、珊瑚を見る。揺らめく海草を。頭上の光を。
 オレは知ってる。海のやさしさ、海の激しさ。海が家だと知ってる。ここが自分の故郷だと思う。
 いや……ここが故郷だと知ってるレンを、知っている。これはレンの夢なんだ。

 下町で拾って三ヶ月。オレは毎晩レンを抱き、海の夢を見続けた。

 
 そして、97日目の朝が来る。

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あきゅろす。
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