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小説 2
7 直姫
 元希がさっきの女を連れて来た。その間に三回蹴られたのを、オレは見た。しかも三回とも、元希は嬉しそうだった。

 マゾ? マゾなのか? ありえねぇ!

 しかし秋丸は、二人のやり取りを完全スルーしてる。慣れてるらしい。
 元希が、さっきまでとは大違いの、ピカピカの笑みを浮かべて言った。
「おい、隆也。紹介してやる。この美女はムサシ・ノウの第一王女、紅水姫・加具山・直人姫だ。オレ様の婚約者……」
 ゲシッ。全部言い終わる前に、姫の足が元希の腰を蹴る。
「まだ承諾してない。お前が申し込んだだけだろう」
「痛ぇ! ヒデーよ。弟に自慢ぐらいさせてくれよ。お兄様にはこんな美女の恋人がいるってさ」
 文句言いながらも、元希はやっぱり嬉しそうだ。姫の方も、恋人呼ばわりには、悪い気はしてねーらしい。ちょっと頬を赤くして、そっぽ向いてる。

 ツンデレ? 初めて見た、これがツンデレか!

 オレは秋丸をちらっと見た。腹一杯、という顔してる。苦労してんだな、あんた。
 けどこの姫、姫……だから女だよな? でかくねぇ? 元希と並んだら目立たねーけど、オレと同じくらい身長ねーか? やっぱ西方人だから? 
 ってか、直人姫? 直人って男名だろ?

 頭の中はかなりぐるぐるしてっけど、本人の前で言う訳にもいかねー。オレは一礼して、背筋を伸ばした。
「初めまして。黒晶五星・阿部・隆也です。兄がいつもお世話になっております。恐れながら姫様、何とお呼びすればよろしいでしょうか?」
 姫は大きな黒い目をオレに向けた。お、笑うと可愛い。胸もそれなりにでけぇ。ゆったりした薄紅色の布を巻きつけるような衣装だが、スタイルの良さは分かる。長ぇ黒髪を一つに編んで、後ろに垂らしてる。
 確かに、自慢したくなる美女だった。……レンほどじゃねーって、やっぱりオレは思ったけど。

「世話などしておらぬ。世継ぎである為に男名だが、わたくしのことは、直でよい」
「では直姫様、と」
 直姫がにっこり笑った。それを見て、元希がすっごい顔してオレを睨んでる。何だよ、別に盗りゃしねーよ……この間言われたセリフを、心の中で返す。

 そこへ、シガ新大統領がやって来た。そう言や、挨拶に回るっつってたな。
「こんばんは。トーダ・キタとムサシ・ノウの方ですね。遠方よりありがとうございます」
「こんばんは。本日はおめでとうございます……」
 挨拶は元希に任せて、オレは少し後ろに下がった。選挙中はこの人の演説で、さんざん稼がして貰ったけど、礼を言う訳にもいかねーもんな。「演説聴きましたー」とかうっかり言っちまわねーように、引っ込んでおくに限る。

 けど、大統領はオレにも話があったようで、握手を求めてきた。
「こんばんは、黒晶五星さん。貴方にはお聞きしたいことがありました」
 オレはちょっとヒヤッとしたけど、笑顔を作って握手に応じた。
「光栄です、大統領。何でしょう?」
 そう答えるべきだよな? 元希の方をちらっと見ると、元希は直姫ばかりデレデレ見てる。てめー! 答えちゃダメな質問とか、合図してくんねーと判んねーぞ!

 焦るオレに、シガ氏は一歩間合いを詰めて、小声で言った。
「この竜卵は、いつ孵化しますか?」
 直球で来た! オレは頬が引きつるのを感じながら、笑顔でとぼけた。
「さあ、わたしには何のことやら……」
 元希に視線を送る。でも気付かねー。っつか、この会話も聞こえてねー。


 そしてシガ氏は言った。レンに。
「君は何者ですか?」
 レンは答えた。

「ラン」
 卵、と。

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あきゅろす。
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