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小説 2
6 華燭
 オレは生まれも育ちもニシウ・ラーだが、十五年ラーゼをやってて、大統領官邸の中に入ったのは初めてだった。
 広い。そしてスゲー明るい。
 まだ玄関先だってのに、立ち止まりそうになっちまったのは、特大シャンデリアのせいだ。何だこの大きさ、半端ねー。

 いつの間にか口が開いてたらしい、元希に顔の上下をガツンと挟まれた。
「みっともねーマネすんな」
 相当痛かったが、反論できねー。確かにダセーわな。
「トーダ・キタに照明がねーみてーだろーが。何見ても何聞ーても、余裕の顔で笑ってろ。レンを見習え」

 レンは相変わらず無表情で、ぼんやりと前を見つめている。けど、琥珀の瞳にシャンデリアの光が映りこんで、キラッキラだ。きれいだ。
 ああ、キスしてー。
 唐突に思った。でもそういう場所じゃねーのは判ってる。宿に帰ってからだ。


 真新しいカーペットの敷かれた廊下を歩くと、案内されたのは大広間。ここのシャンデリアは普通サイズだが、今度は数が半端ねー。
「トーダ・キタ王国王子、陽光次将様、黒晶五星様」
 入り口に立ってる案内係が、オレ達の名を呼ばわった。秋丸とレンはおまけ扱いみてーだな。まあ、レンには「レン」しか名がねーし。

 そういや秋丸が、レンが自分のこと「ラン」って答えるのは、「卵」って意味じゃねーかっつってたけど、ホントかな? ホントなら、レンには違う名を付けてやった方が良くねーか……って、ちっと思ってる。漢字名つけちゃダメなんかな?
 レンなら、「廉」で決まりなんだけどな。
 廉……穢れや欲がないって意味。文字通りじゃねーか?

 そんなこと考えてる間に、来賓が揃ったらしい。最後に今日の主役、シガ新大統領が現れた。
「どうぞ皆様、お寛ぎ、ご歓談下さい」
 って、今度の話は短かった。後でゆっくり、挨拶に回ってくれるんだと。

 でも、さっきから挨拶に回って来てんのは、シガ氏じゃなかった。元希の思惑どーり、いろんな国や地域の奴らが、ひっきりなしにやって来る。入れ替わり立ち代り、ってこんな感じかと体感する。
 挨拶に忙しくて、食事する暇もねぇ。
 みんな、オレとレンをちらちら見てる。
 オレは愛想笑いを顔に張り付かせ、元希の横で黙って話を聞いてるだけだ。
「こちらは弟君ですか? お連れの方は?」
 みんなオレを……ってかレンを紹介して欲しそーなのが見え見えだ。元希はそれを、楽しそうに意地悪くかわす。

「御覧の通り、不調法者で……」
「挨拶もろくにできない愚弟でして……」
「さあ、どうなのでしょうか……」

 曖昧な返事を繰り返して、はっきりとはオレ達を紹介しねーの。性格の悪さがホント分かる。相手だってレンを指して「これは竜卵ですか?」ってはっきり聞きゃーいいのに、そうしない。
 腹の探りあいって、面白そーだよな。

 もちろん、ビジョーの奴らも来た。さっきの赤褐色の男のほかに、黄色とか紺色とか、全員色違いだけど同じ服装だった。
「やあ、先程はどうも」
 赤褐色の男が、オレに話しかけて来た。手を差し出される。ここは握手しねーと不自然だよな? 元希をちらっと見てから、握手に応じる。

 でも絶対レンには触らせねーけどな。

 こいつらの目線を見て、改めて思う。だってこいつら、他の国の奴らとは、明らかに眼の色が違ぇ。特に一番年長の、滝井と名乗った男が一番ヤベー。レンを欲しがってること、隠そうともしていねぇ。
 やっぱ緊張してたんだろうか、ビジョーの連中が立ち去った後、なんかスゲー疲れた気になった。


「ちょっと軽く食べるかい?」
 秋丸が気を遣って訊いてくれた。はい、と返事して元希を見ると……あれ、いねぇ。ぐるっと見回すと、もう料理の方にいる。
 いや、違う。料理の方にいる女に、声を掛けてんだ。ナンパか? 知り合いか? あ、蹴られてる。……のに、嬉しそうなのは何でだ?

「隆也君、榛名は放っといていいから。関わると馬鹿を見るよ。さあ、オレらは食べに行こう」

 秋丸が、肩をすくめ、お手上げのポーズをしながら言った。馬鹿を見るのは……おれもイヤだな。

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