小説 2
4 持ち主
フミキ達に手を振って、オレは再び元希の側に戻ろうとした。すると一人の男が声を掛けて来た。
「ちょっといいかな」
「はい」
オレは元希に口酸っぱく言われていたので、愛想よく微笑んだ。相手に向き直り、足を肩幅に開いて手を後ろに組む……ラーゼ風の起立姿勢なら、取り敢えず無難だ。
赤褐色の上着に同生地のつばなし帽。オレよりちょい年上、身体がでかい。元希みたいに縦にじゃなくて、横にがっしりな。口元には愛想笑いが張り付いてるが、目つきが鋭ぇ。
でもちょっと視線が泳いでるな。オレとレンとを見比べてる……?
「この子供は君の……?」
男はレンを目で指して言った。
「はい。こいつはオレ……わたし、の大事な宝です」
「そうか……」
そいつはちょっとためらった。でも少し考えてまた訊いて来た。
「失礼だが、その子をどこで入手したのだろう?」
「どういう意味ですか?」
「いや、お気を悪くしたのなら申し訳ない。実はわたしの家から、使用人の子供が一人さらわれてね。その子にそっくりだったもので、気になって」
気になるのはオレの方だ。だが表情には見せねえ。しれっとして訊いてやる。
「それはいつの事でしょう?」
「三ヶ月前だ」
三ヶ月前……。確かにオレ達は、下町で荷馬車につながれていたレンを盗み出した。
じゃあ、こいつがレンの元の持ち主ってか?
レンを鎖で荷馬車につないだ? ふざけんな。
「あいにく判りかねます。こいつはわたしへの、成人祝いの贈り物ですので」
「しかし……」
しつこく食い下がる男に、オレはにやっと笑みを浮かべて言ってやった。
「金糸の髪、琥珀の瞳、砂色の肌。竜卵とはみんな同じ外見なのでしょう?」
竜卵、と聞いて、男がびくっと肩を揺らす。動揺し過ぎだぜ、おい。オレは頭をペコリと下げた。
「兄が呼んでいますので、失礼します」
男は引き留めなかった。
側に戻ったオレに、元希が小声で訊いた。
「おい、ビジョー連合の奴と、何話してた?」
ビジョー連合。ニシウ・ラーのすぐ西隣の国だ。砂漠とオアシスの、小さな国々の連合国。
オレは男の方をちらっと見た。
奴はまだ何か言いたげに、オレ達の方を見てた。しつけーな。けど、元希の視線を避けるように、背を向けて立ち去った。同じような格好をした連中の方に戻って行く。服装が同じでもそれぞれ色違いになってんのは、もしかしたら、国ごとの代表なのかも知んねーな。
「レンの元の持ち主のようだぜ」
元希は興味ありげな顔で、「へー」と言って笑った。
「気ィ付けろよ。今、オレらの国は、ビジョーとちょい揉めてんだかんな」
「はあ?」
オレは目を剥いた。初耳だった。
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