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小説 2
3 式典
 大統領官邸の上空に、ポンポンと花火が打ち上がる。昼間だから、もちろん音だけのヤツだ。この花火も火薬あってこそだから、ニシウ・ラーの特産品の一つ。すげぇ高価らしいが、惜しげもなく使ってる。
 まあ、祭りだしな。
 官邸前広場、青空の下で、来賓のオレ達がずらっと並んで座る中、まず行われたのは任命式。国会議員議長のじーさんが長ぇ話をし、それから新大統領シガ氏の胸に、金の勲章を着けた。
 これは歴代の大統領が一生持つモンらしい。誇らしげにずっと着けてる人もいれば、大事に保管しとく人もいんだって。

 学校に入る前くれぇの幼児二人から、花輪を貰って首に掛けたシガ新大統領が、ようやく演説台に上がった。
 選挙前の街頭演説で散々見たハズなのに、別人かってくらい晴れやかな顔だ。人気ある人の演説はスゲー人ゴミになって、仕事しやすかったから、オレは度々この人を見に行ってる。話はあんま聞いてねーんだけど。

「皆さん、本日は遠方よりお越し頂き、まことにありがとうございます」

 ラーゼの正装、黒の詰襟を着たシガ氏の演説が始まった。詰襟と袖のとこには金の刺繍があって、金の勲章とよく似合ってる。あの勲章は大事なモンのハズなのに、そんなしっかり着けるって訳でもないらしい。
 あれなら簡単にスレるぜ、と、性懲りもなくオレは思った。別にスラねーけどさ。

 元希が「つっまんねー名代」と言ってた理由がよく判った。本当につまんねー式典だ。それもこれも、周りの奴らのテンションが低いからだ。
 オレ達からやや離れて、警備する兵の向こう側では、集まった市民が大熱狂の声を上げてる。あーあ、あん中にいたら楽しーんだろうな。ホントお祭り騒ぎだよ。
 ストレス解消の意味もあんだろうか。キャーキャー騒ぐ一般市民達の声を聞いてると、何か余計に疲れる気がして、オレはがっくり肩を下げた。

 ようやく「つっまんねー」式典が終わったのは、じっと座り過ぎてケツも痛くなった頃。オレはもう誰の話も、何も聞いてなかった。罰の一つのハズだよ。ずっとレンの手を握り締めてたから、何とか座ってられたけど。
 決めた。オレがいつか大統領になる時があったら、ぜってー長い演説はしねぇ。人気が落ちる!

 いつの間にか陽は傾き始めていて、西の空が少し赤くなっていた。宴会にはまだ間があるようで、皆、式典会場や官邸の庭なんかを散策してる。
「あーあ」
 元希が立ち上がって伸びをしたので、オレも一緒に立ち上がった。ぐっと両手を挙げる。腰が痛ぇ、首も痛ぇ。
「レン、辛かったな」
 オレがレンを抱き締め、柔らかい髪に顔をうずめてると、元希が横から割り込んでくる。
「お前だけずりーぞ。ずっと手ぇ触ってたくせに。オレもレンに触る」
「何すんだ、こら、やめろ」
 そんな事をやってた時、警備兵の向こうから、声を掛けられた。

「おーい、タカヤー!」

 フミキだ。手を振ってる。オレはフミキのほうへ走り寄った。当然レンも、元希の腕をすり抜けて付いて来る。逃げられた元希が残念そうな顔をした。ざまみろ。
「おう、どうだった?」
 フミキは答える代わりに、ぐっと親指を立てた。もちろん首尾を聞いたのだ。大漁らしい。そりゃあ、こんな絶好のスリ日和を逃すなんてしねーよな。
「それにしても、タカヤ」
 オレを指差してフミキが笑う。一緒にいた仲間も笑ってる。中にはゲラゲラ腹を抱えてる奴まで!
「なんなの、そのコスプレっ! おかしー、似合うよー、格好いいー」
「うるせー」
 格好いーなら笑うハズねーだろ。オレはクソフミキを睨み付けた。フミキはちっとも気にしないで言った。
「レンは似合ってるけどね」

 ああ、オレもそう思う。

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