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小説 2
2 盛装
 トーダ・キタの男子の正装は、白の長衣だ。やっぱあの辺の国は、背の高い奴らが多いからかな。
 基本は白一色で、貴族なんかはそれに、刺繍や縫い付けなんかをするらしい。中でも紫色ってのは高貴な色で、王族しか使えねぇ色なんだと。
 元希の長衣には、紫と金とで、太陽の模様が刺繍されていた。すっげえ細かい。よく見ると、小っせえ石や貝なんかが縫い付けてある。買ったら高そうだ。
 オレは着飾った元希を見て、へぇ、と感心した。上背があって肩幅も広いから、よく似合ってる。結構、王子サマらしいじゃん。喋ればバカなんだけどな。

「おい、こら、風呂入ったか?」

 バカが喋った。
 バカの額には、金の額飾りが着いている。といっても金ぴかじゃなくて、荒く加工して、光り過ぎねぇようにしてあった。まあ、趣味は悪くねぇ。
「あー。もう出たぜ」
「レンはピッカピカに磨いたんだろーな?」
「ったりめーだろ。つか、こいつは磨かなくてもきれーなの!」
 オレの答えに、元希はにんまりと笑った。
「お前も早く着替えろよ。さ、レンー、お前は特にゴーカに着飾んだぞー」
 元希がレンの頭をくしゃっと撫でた。ムカツク。でも、くそ、まだ罰は続いてて逆らえねー。
「触んな」
 一応、文句だけは言わせて貰うけどな。

 式典に出るからって、この一週間の間に、オレとレンの長衣も用意された。急ごしらえだから、刺繍は無しだ。その代わり、いろんな布や紐で縫い付けがされてある。波のイメージで、オレのは紫と黒。レンのは黒と金だ。
 金はレンの色って感じだけど、元希とお揃いなのは気にくわねー。
 おまけに元希はオレ達に、額飾りも買ってくれた。オレのは黒に近い燻し銀。レンのは金で、しかもでかいオパールが付いている。母さんの指輪みたいなんじゃなくて、白っぽいオパール。ミルク色の中に、キラキラ色が踊る優しい石だ。

「オレ様のポケットマネーで買ってやった。スリに財布盗られなくて良かったな」
 すげえ嫌味だ。オレは顔をしかめて、そっぽを向いた。
「悪かったな」
 こういうとこがなかったら、素直に感謝も言えんのに。

「榛名、準備できてるか?」
 秋丸が呼びに来た。彼の長衣には、裾の方に控えめに朱色の刺繍がされてある。あんま目立つの好きじゃねーのかも。元希の側にいりゃーそうなるか?
「おし、隆也、特訓の成果を見せろよ」
「おー」
 特訓とは、剣の訓練の事じゃねぇ。行儀作法だ。
 オレだって、二年前までは普通に貴族だったから、一応は身に着けてるハズだった。けど、特にどっかの式とか集まりとかに行った訳じゃねぇし、そもそもラーゼでいるには不要な作法なモンだから、かなり適当だったらしい。
 まーな、学校で弁当食うのに、作法なんてねーもんな。言われんのは「ポロポロこぼすな」くれーだよな。
「オレ達を、あんま引っ張り回すなよ、兄上」
 元希は、おっ、という顔をしてオレを見た。自分から「兄上」って呼んだのは初めてだった。

 式典会場へと向かいながら、レンの肩を抱き寄せる。ひんやりとしてて、やっぱ落ち着く。オレの竜卵。
 琥珀の瞳を覗き込むと、ガラスのような表面に、緊張したオレが映っていた。

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あきゅろす。
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