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小説 1−10
隣国の女王と結婚したら相手は男でタチだった・1 (女装注意)
 王家の一角に生まれたからには、結婚は自由にできないものだと、最初から分かってた。
 老王陛下の孫はたくさんいるし、オレ自身、王位継承権の順位がそう高いって訳でもない。
 政略結婚は当たり前で、政治の道具になるのも当たり前。上の意向に従って、どこかの有力貴族の令嬢か、周辺の王国の王女と結婚することになるんだろう。
 子供の頃からそう教えられてたし、周りのみんなもそうだから、そういうもんだと思ってた。
 オレの両親は恋愛結婚だったらしいけど、周りの大反対を押し切った結果だったから、色々波紋もあったみたい。
 父親が、国王の長男なのに王太子じゃないのも、オレの王位継承順位が低いのも、その大恋愛の結果だ。
 別に王位に興味はないし、気にはしてないんだけど、そんな訳で、恋愛結婚について夢を抱くなんてこともなかった。
 だから――。

「レン、隣国の新女王の結婚相手に、お前をどうかと思っている」
 祖父である国王陛下に呼ばれて、そんな話を向けられた時だって、ためらいなくうなずいた。

 西の隣国ニシウラが、代々続く女系王家だっていうのは有名な話だ。
 神話のアマゾネスみたいに、男児はすべからく殺されるか奴隷に……なんて訳では勿論ないけど、ともかく、王位継承権は女児にしか与えられないらしい。
 そういえば、最近代替わりしたんだっけ?
 周辺各国を招いての、盛大な戴冠式はまだのハズだから、もしかすると結婚式と一緒にするつもりかも知れない。
 目立つのはイヤだし、緊張するけど、主役はどうせ女王陛下、だし。脇役のオレは、せいぜい引き立て役になって、陰で控えてるのが丁度いい、かも。
 新女王のカヤ姫は、美人で頭が良くてキレ者で、その上剣の腕もなかなかで、文武両道のすっごい人らしい。
 オレと同い年なのに、早くも女王の風格にあふれてるんだって。
 女系王家だからなのか、超がつく程箱入りで、即位するまでどこのパーティにも舞踏会にも参加したことなかったみたい。
 くだらないパーティに参加するより、書類のチェックでもしてた方がマシだ……って、言ったとか、言わなかったとか。
 オレだって社交はあんま得意じゃないし、キレイな姫と踊っても、気の利いたこと1つ言えないから、彼女の気持ちも分かる気がした。

 カヤ姫――カヤ女王って、どんな人なんだろう?
 美人で優秀で……って聞くと、オレなんかってちょっと気後れしちゃうけど、仲良くできたらいいなぁと思う。
 退位した前の女王様には、小さい頃お会いしたことあるんだけど、長い黒髪の迫力美女で、すっごく胸が大きかった。
 男言葉を使ってて、サバサバした性格で、子供心に格好いいなぁって思った覚えがある。
 蝶よ花よって感じより、あれくらいサバサバしてた方が話しやすいかもだけど、どうなのか、な?
 隣国の大使が持ってきてくれた肖像画には、黒髪でちょっと垂れ目で意志の強そうな眉をした、すっごくキレイな姫君が描かれてた。
「すごくキレイな人、です、ね」
 大使に感想を告げると、視線を泳がせながら「いかにも」とか言われて、ちょっとだけ気まずかった。もしかして、この通りじゃないのかな?

 肖像画はちょっと盛り気味に描く傾向があるから、そりゃあ100%このままってことはないんだろうけど、美女だから結婚する訳じゃない。
 交換で渡したオレの肖像画だって、別人かっていうくらいキリッとしてたから、おあいこ、だ。
 ご挨拶の気持ちにって、我が国の特産のアラゴナイトとオニキスをあしらったネックレスを贈ったら、丁寧なお礼状が届けられた。
 薄黄色のアラゴナイトは、別名「和み石」とも呼ばれてて、人を和ませ身も心もオープンにするっていうパワーがあるんだって。
 真っ黒なオニキスは、弱気を打ち払い、前向きな気持ちになれるらしい。だから、最高の贈り物だって、その手紙に書かれてた。
 『結婚後は、身も心もオープンにして、前向きに、私のすべてを貴方にお見せします』って。
 女の子にしては意外に筆圧が高くて、力強い文字だったけど、いかにも頭がよさそうな手紙で、さすがだなぁって感心した。
 喜んで貰えて嬉しい。
 手紙には、バラの花の香水があしらわれてて、封を開けるといい匂いがして、それにもちょっと感心した。

 オレなんて、ネックレスと一緒に送った手紙には、『ご機嫌いかがですか、気に入ってくだされば嬉しいです』って、そんだけしか書いてない。
 頭の良し悪しって、こういうとこで分かるのかなぁって、ちょっと不安だ。
 結婚した後、せいぜいバカにされないよう、あっちの国のこと色々勉強しよう。剣も、もっと練習しよう。
 女系王家の新女王にふさわしいっていう、美人で文武両道のお姫様。
 剣が使えるなら、2人で練習とか試合とかもできるかな?
 政治的な外交手段としての、断れない結婚だったけど、オレはそれなりに楽しみにしてた。
 前もって聞いてた評判がウソでも、肖像画が詐欺でも、どうでもいいと思ってた。
 オレだって、そんなに大した人間じゃない、し。女王陛下と結婚できるだけでも贅沢な話だ。
「レン、本当にいいんだな? 一度あちらに行ってしまうと、もう離縁は認められんぞ?」
 陛下からは繰り返し念押しされたけど、「大丈夫だよっ」と請け負った。

 新女王陛下に呆れられ、一方的に離縁されるとかならともかく、自分から申し出るなんて有り得ないって思ってた。
 思ってたけど――。

「初めまして、アベ=タ=カヤと申します。レン様」
 オレの贈ったネックレスを身に着け、ふんわりとした淡いオレンジのドレスをつまんで優雅に礼をした新女王陛下を見て、オレは衝撃に声もなかった。
「よろしくお願い致しますわ」
 響きのいい低い声が、丁寧な女言葉をつむぐ。
 大使が目を逸らした訳が分かった。
 オレの結婚相手は、黒髪に垂れ目で整った顔をした、同い年の男だった。

(続く)

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あきゅろす。
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