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小説 1−8
嵐のビジホ・4 (にょた)
 ふいにザアッと雨音が響いて、ハッとした。
 真横の窓を見ると、強い雨が窓を斜めに打ちつけてる。
 不気味な色した雲の向こうに、びらびらと雷光がまたたいた。すぐにゴロゴロ音が聞こえて、随分近ぇなと思った。
 雷を伴う大雨って、激しいけど、すぐに通り過ぎてくイメージがある。三橋のコレも、同じじゃねぇ? そんなんに捕まってどうすんだ。
 立ち上がり、くすんだピンクのカーテンをシャッと閉める。
「……雨、すげーな」
 告白を躱し、努めて明るく話しかけたけど、三橋は返事をしなかった。
 まさか泣いてたりしねーよな? 面倒臭ぇのは御免だ。どうしようもねーことで泣かれたって困るっつの。
 脳裏にまた、あの白い裸がよみがえり、ぶるんと強く首を振る。

「……お前、雷平気か?」
 妙な沈黙を振り払おうと、もっかい布団の山に声を掛けると、「苦手、です」ってくぐもった答えが返った。
 よかった、泣いてねぇ。ホッとしたら、ちょっと笑えた。
「まさか、雷怖くて、そんなになってんのか?」
 くくっと笑いながら布団の山をぽんと叩くと、またそれが、もぞっと動いた。
「ちがい、ます」
 弱々しい返事が、なんかおかしい。
 当たらずとも遠からず? シャワーの音で何も聞こえなかったけど、オレが風呂行ってる間に、デカいのが鳴ったりしたんかな?
「違ぇなら出て来いよ、メシ食おうぜ。眠くなったとか、ウソなんだろ?」

 オレの問いに一瞬黙って、つっかえながら三橋が答えた。
「ウ、ソじゃない、です」
 それ絶対ウソだろって見え見えのドモリ方だ。
「ウソじゃねーか」
 ははっと笑いつつ、カタツムリみてーになってる布団の端を、ぐいっと引いた。布団っつーか、シーツにくるまれた毛布っつーか、とにかく薄くて白いヤツ。
 冗談半分だったけど、「いやっ!」って悲鳴を上げられて、なんか余計にムキになる。
 こんなヤツ、普段なら絶対放っとくのに――妙に構いたくなったのは、告白を躱してぇってのが半分と、もう半分は酒のせいだ。
 薄暗い部屋に、カーテン越しの雷光がピカッと光る。ゴゴーン、とくぐもって聞こえる雷鳴に、テンションが上がる。
「ほら、怖くねーんだろ」

 思いっ切り布団を引き剥がしたのと、三橋が「ひゃっ」と悲鳴を上げたのと、同時だった。
 目に飛び込んできたのは、シーツの上に転がる肌色。
 白い肌、細くくびれた腰と、脚、こぼれる胸を抱き締めるように両腕で隠して、半裸の女がうずくまる。
 顔が赤い、とか、考える間もなかった。
「ばっ、てめっ……!」
 慌てて自分の帯をほどき、浴衣を脱いで投げ渡したのは、多分動揺してたからだろう。剥がした布団を被せてやるとか、そんなの思いつく余裕もなかった。
「着てろ!」
 白地に藍色の模様の入った、地味なホテル浴衣がバサッと三橋の上に落ちる。互いにパンツ1枚っつー格好で、赤い顔の女が上目遣いでオレを見た。

 不覚にも目が合って、一瞬怯む。
 なまめかしい体勢、キレイな肌、潤んだ目、ぽかんと開いた唇も、何もかもがエロくて見てらんねぇ。
 下半身が固くなってくのを自覚しながら、バッと三橋から顔を背ける。
 ない、ない、ない、ないって! 心の中で叫びながら、早く浴衣着ろ、と必死で念じた。
「先輩……」
 頼りなげな声で三橋が呼ぶのを聞きながら、ヤベェってホント思った。
 メインの照明を落とした、薄暗いビジホのシングルの部屋。くすんだピンクのカーテンの向こう、雷光がびらびらと妖しく光る。
 薄暗い照明がふうっと弱まり、元に戻る。
 グルグルグル、と低く唸るみてーな音がした直後だった。

 ゴゴーン! バリバリバリバリ!

 心臓が止まるかってくらいの爆音が響き、「きゃーっ!」って悲鳴が真横で聞こえた。
「きゃーっ、やああーっ!」
 柔らかく重いものにドスンとしがみ付かれ、息を詰める間もなく体勢を崩す。
「おいっ」
 目ェ逸らしてたのが悪かったんだろう。バランスとることもできなくて、引っ張られるままグラッとベッドに倒れ込む。
 むにゅっと柔らかいモノが手に触れて、その正体を確認するより先に、はっ、と息を呑む音を耳元に聞いた。
 目の前にあんのは、シーツに散った薄茶色の髪と、とんでもなく赤い後輩の顔。身を起こそうと、突いた手に力を込めると、耳元で三橋が「あっ」とうめいた。
 化粧を落としてもピンク色した唇が、薄く開いて甘い吐息をまき散らす。
 こわばってた華奢な肩から、ふうっと力が抜けるのに気付くと、もうダメだった。誘われるまま唇を重ね、手のひらに触れたままの柔らかな胸をぎゅっと揉む。

 三橋は抵抗しなかった。
 オレに惚れてんだから当たり前かも知んねぇけど、とにかく、抵抗しなかった。
 舌を差し込み、深くキスしながら両胸を強く揉んでも。細い腰や平らな腹に手のひらを這わせても。首筋や耳元を舐めても。何の抵抗もされなかった。
 片胸を揉みながら、もう片方をしゃぶると、「ふあっ」と高い声を上げたけど、軽く手を突っぱねられても、それは抵抗には見えなかった。
 両手首を左手でまとめて頭の上に捉えつつ、右手を白い脚に這わす。
 キスをしながら太股を撫でると、三橋は時々びくんと体を跳ねさせながら、重ねた唇から声を漏らした。

(続く)

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あきゅろす。
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