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小説 1−8
くろがね王と王妃の祭り・7 (完結・R18) 
 興奮が収まんねぇ。
 どうにも血が騒ぐ。
 祭りの後だからか? それとも、こんな後宮の最奥にすら、かすかに聞こえる音楽のせいか? 壇上で聞いた舞踏音楽、勇ましくも美しい剣舞の音色が、脳裏によみがえってオレを煽る。
 太鼓のリズムをなぞるようにガツガツと腰を打ちつけると、レンが高く喘いで背を反らした。
「ああっ、あーっ!」
 目をギュッと閉じて、オレの腕に縋るレン。
 今日の足首に鈴はねーけど、着けてたらきっと、いっそう激しく鳴っただろう。
「あっ、はっ、激しい……!」
 極まった声で訴えて、レンがオレに爪を立てる。
 小さな尻を掴み、抜き差しを大きく深くすると、可愛い声を上げて白濁を散らした。

 興奮も、絶頂も、一目で分かる。嘘偽りのねぇレンがとても好きだ。
「……タカヤ、さま……」
 少し放心した顔で、ぽかんと口を開けてオレを見てる。
 白い肌、しなやかな体、輝く髪も大きな瞳も、レンの全てが愛おしい。手のひらを這わせて全身を撫で、びくんと小さな反応を楽しむ。
 愛撫するのに邪魔に思えて、首飾りはすべてむしり取った。何もかも無造作に床に放って、組み敷いた王妃と向かい合う。
 琥珀色の瞳は月を映して、きらきら濡れてスゲーきれいだ。とろんと溶けた表情で、無防備にオレを見上げるレン。
 達したばかりの体を気遣い、少しゆるめに揺すり上げると、「ふあ……」と小さく声が漏れた。

 舞台上で向かい合い、宝剣を握ってくるくる踊ってたレンは、なんとも可憐で愛らしかった。
 安全上のこともあるし、オレが見せたくねぇってのもあって、民衆には遠目でしか見せなかったけど――きっとレンの素晴らしい舞い姿は、多くの目を釘付けにしただろう。
 けどオレは、美しく着飾って金銀や宝石を身につけた姿より、今のこの一糸まとわぬ姿の方がきれいだと思う。
 白濁にまみれてもきれいだ。
 他の誰にも見せる訳にいかねぇ、愛する王妃の最も美しい舞い姿。オレの肉を根本まで受け入れ、オレの揺さぶるままに身悶える。これほど優越感を感じる瞬間はねぇ。
 この少年はオレのものだ。
 白い肌を朱に染めて、オレの動くとおりに啼き、オレの思うままに踊る舞姫。
「あっ、……んっ、ああっ」
 色を帯びた喘ぎ声が、慎ましく耳に落ちる。
 この声を聞いていいのも、オレだけだ。

「レン」
 荒い息の中、愛おしい王妃の名前を呼ぶ。
 汗ばんだ髪を撫で、腕に抱き込んで口接ける。背中に這わされるレンの腕。時々しがみつかれんのが、すげーイイ。
「ふあ、ああ……」
 甘えた善がり声が、オレの耳を楽しませる。
 細い首を舐め上げると、オレを包み込む後腔がきゅんと締まる。
 色の薄い乳首を乳輪ごと可愛がると、「あーっ」と高い声を上げて、レンが首を振り、髪を散らした。
 耳に付けたままの飾りが、差し込む月光をきらきら映す。
 気持ちよさそうに目を閉じて、オレにしがみつき、びくびくと体を震わせる様子は、庇護欲と独占欲をかき立てた。

 愛おしい。好きだ。他に誰もいらねぇ。この腕に抱くのは、生涯コイツだけでいい。
 王宮の権威を維持するためには、本来、血族を増やすのが不可欠だ。だからホントは多くの妃を後宮に迎え、多くの子を作る必要がある。
 男同士である以上、レンとの間に子は望めねぇ。けど、それでも尚、コイツだけでいいって思うんだから、相当溺れてるんだろう。
 愛してる。
 そしてレンにも同じだけ、オレだけを愛して欲しい。
 ちらっともよそ見なんかさせたくねぇ。だからオレも、よそ見なんかできねぇ。
 他の妃など不要だ。子供もいらねぇ。もしレンが女だったとしても、きっとオレは、子供を望まなかっただろう。
 レンはずっとオレだけのもので――例えオレの血を引く子供でも、レンを共有などしたくなかった。


 翌日、レンが目を覚ましたのは昼前だった。
「睦まじいのはよろしゅうございますが、王妃様のお体も、少しはお考えくださいませ」
 侍女頭がぶうぶう言うのを軽く「ああ」と受け流し、起き抜けの顔を眺めに行く。
 湯上りのレンは、まだ寝ぼけたようにぼんやりしてて、クッションの中に気だるそうに埋もれてた。
「悪かった、無茶をさせたな」
 抱き起こしてヒザに乗せると、レンはじわっと頬を染めて、「い、え」と小さく首を振った。薄い衣装を身にまとい、くったりオレにもたれる様子が、言いようもなく愛おしい。
 舞いの奉納から一夜明け、首都はまだ祭りの中にあるようだ。
 まあ、まだ花火が残ってるし、後夜祭はこれからだ。祭りがまだ終わらねー以上、仕事も事案も山のように積まれてる。
 治安がどうとか、予算がどうとか、巡回兵士からの不満に、来賓からの無茶な要望……細々とした報告を朝から聞かされ、正直うんざりだったけど、レンを抱き締めれば癒された。

「メシは食ったか?」
 ぼうっとした顔を覗き込むと、小さく首を振られた。
 痩せてる割に食いしん坊のくせに。食欲失くすくらい疲れさせたかと思うと、自業自得とはいえ、さすがにちょっと反省した。
「じゃあ、一緒に食おう」
 ヒザに抱いたままそう言って、侍女に軽く合図する。やがて目の前に布が敷かれ、次々と料理が並べられた。
「果実酒を」
 侍女に取らせた杯を、レンの口元に寄せて飲ませる。こくりとノドを鳴らす様子が可愛くて、次はパンを食べさせた。

 スープをすくって飲ませようとしたら、さすがに恥ずかしくなったか、レンが少し抵抗した。
「あの、自分で食べられ、ます」
 オレのヒザから逃げようなんて、許す訳がねーだろう。
「いーから、大人しく食え」
 ふふっと笑いながら言うと、じたじた暴れなくはなったけど、代わりに耳まで赤くして、スゲー可愛い。
 オレの手から肉も果物もぱくりと食って、恥ずかしそうに咀嚼する。
「ほら、こぼしてる」
 口の横を舌でべろりと舐め取ってやると、「あ……っ」と声を上げて身を竦めて。そんな仕草にも癒された。
 まったく、どれだけ惚れさせる気なんだろう。
 毎日毎日が新鮮で、眩しくて、楽しくて嬉しい。こんな風に穏やかな気持ちで、誰かと過ごせるなんて、コイツと出会う前までは思ってもみなかった。

 クーデターに愕然としつつも、努めて冷静にふるまって――心を鬼にして粛清を進めた。あの暗黒の日々から、そう何年も経ってねーのに。今のこの、国の穏やかさはどうだ?
 全部、レンのお陰だ。
 閑散とした後宮にひそやかな月光が差し込み、やがてそれは暖かい太陽に変わって、オレも国も癒してくれた。
 首都が祭りにざわめくのを感じる。
 民がみんな、オレの王妃を祝ってくれて嬉しい。
 オレの選んだレンを認めてくれるのは、オレも認めてくれるのと同義だ。
 まだまだ国内外には不穏な動きもあるみてーだし、レンの身もオレの身も、完全に安全とは言い難ぇ。けど、今この時、こうして穏やかに過ごせるのは重畳だ。
 気合入れなくても前向きになれる。
 全部がいい方向に向かってる。

「今夜は花火、一緒に見よう」
 優しく告げると、「はい」とうなずいて、ふわっと笑う。オレに愛と平穏を与えてくれた、最愛の王妃。
 首都での祭りは続いてて。
 オレたちの祭りも、まだまだ終わりそうになかった。

   (終)

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