小説 1−8
くろがね王と王妃の祭り・1 (ファンタジーパロ・くろがね王続編・阿部視点)
※※この話は、くろがね王と月の舞姫、くろがね王と黄金の王妃、くろがね王と王妃の祈り の続編になります。
城下町のあちこちに、白いランタンが次々と設置されていく。
軒下や屋根の上にもちらほらあるが、ほとんどは地面だ。通行の邪魔になるんじゃねーかって意見もあったけど、「月祭り」っつーからには、月が主役だ。
月明かりの美しさを味わうためにも、できるだけ高いトコに明るいモノは置かねぇ方がよかった。
ランタンを白に統一させたのも、同じ理由からだ。
色とりどりのランタンを飾れば、「ランタン祭り」になっちまう。それじゃあ意味はねーだろう。
讃えてぇのは月だ。
オレと最愛の王妃を出会わせてくれた月。そして、その加護を受けた舞姫。
レン――。
月祭りの話を聞いて、喜んでた顔を思い出す。
「陛下のご成婚1周年記念に、国を挙げて祭りを催すというのはいかがでしょう?」
数ヶ月前の会議の席で、そう提案したのは大臣だった。
大臣は、良くも悪くも正直な男だ。隠し事はよくするが、ウソはあまり言わねぇ。
悪いことは悪いとハッキリ言うし、態度がデカければ声もデカい。こぶしを振り上げて正論を吐き、君主さえ論破する、その強さが以前は苦手だった。
その大臣がかなり丸くなってきたのも、レンの影響はあるだろう。
生い立ちのせいか人見知りで、頑張り屋の癖に自己評価が低いレン。最初はそのレンを王妃に迎えることに大反対してたくせに、実はそれなりに認めてはいたらしい。
あちこちに手を回し、自ら動いて、隣国の王族の庶子だってことを見事に突き止めて見せたのも、大臣の手柄だ。
レンが自分から大臣に駆け寄り、頬に口接けて礼を言ったと聞いた時は、マジ、どうしてやろうかと思ったものだが、それもまあ済んだ話だ。
「周辺諸国にはない、我が国ならではの祭りを催せば、観光資源にもなるでしょう。我が国の国力を示す、よい機会にもなり得ます。なにしろ我が王妃様は、国民に愛されておいでですから」
大臣のその提案に、反対意見は出なかった。
月に舞を奉じるのはどうか、と提案してきたのは誰だったか。
市民が踊り、あちこちから集めた舞姫たちが踊り、それから最後に、王妃が踊る。それが終わると再び舞姫たちが踊り、以後は夜通しの無礼講とする。
ランタンの灯りが照らす街の中、夜通しみんなで歌い踊り、笑って、盃を交わせばいいと思う。
治安維持にはなかなか苦労しそうだったが、見回りの兵士の衣装も、ランタンと同じく白で統一してやれば、物々しさも軽減するだろう。
ランタンの設置場所、屋台や露天の登録、舞い手の募集、巡回順路の計画……考えなきゃいけねーことは山積みで、オレも大臣も側近たちも、忙しい毎日を送ってる。
レンも。
「皆の前で、舞を奉じてくれ」
そう頼んで以来、舞いの練習や振付決めに忙しくしてるようだった。
どんな美しい衣装も、豪華な宝石も、恐れ多そうな顔でしか受け取らねーくせに。舞の件を頼んだ時、輝くような笑顔で「はい!」って返事したレン。
嬉しいのは、結婚1周年の祭か? それとも大勢の人前で舞えることだろうか?
本当は前に本人にも告げた通り、オレ以外の前で踊らせたくねぇ。月にさえ見せたくねーのに、その他大勢の前で踊らせるなんて、冗談じゃねーと思う。
「国一番の舞姫を、普段は独り占めなさってるんですから」
側近たちになだめられたが、気に食わねーものは仕方ねぇ。
けどまさか、「では、陛下もご一緒に舞われては?」って言われるとは思わなかった。
言ったのは勿論、大臣だ。
相変わらず自信たっぷりの顔で、ふふんと笑ってこっちの反論を封じて来る。なまじ忠臣で愛国心が高く、有能だから余計に厄介な相手だった。
さらに侮れねーなと思ったのは、それをすぐにレンに漏らしちまう手腕だ。
「た、タカヤ様も一緒に、舞ってくれるってホント、です、かっ?」
夜の後宮で、嬉しそうな顔で無邪気に訊かれたら、「んな訳ねーだろ」なんて言えなかった。
「確かにそういう案は出たが……」
やんわりと、まだ未定だってことを知らせたら、しゅーんとした顔で謝られて、胸が痛んだ。
「お、オレ、勝手に喜んじゃって。ご、ごめんなさい……」
って。
そんな雰囲気じゃ、夜の営みも楽しめねぇ。
「踊らねーとは言ってねーだろ」
月明かりに輝く、柔らかな髪を撫でて抱き寄せる。
「そんなにオレと踊りてーの?」
白い顔を覗き込むと、上目遣いで見つめられ、素直にこくりとうなずかれた。
「オレの踊りはタカヤ様のもの、です、けど。月に奉じるなら、2人の方がいい、です」
そんな可愛いことを、後宮の寝室で最愛の王妃に言われたら、「いいぜ」って言ってやるしかできなかった。
大臣の思惑通りみてーで面白くねーけど、レンがこんなに望むんなら、悪い案でもねーんだろう。
「じゃあ、振り付けはお前が決めろ。ただしオレは、お前みてーに身軽でも、体が柔らかくもねぇ。ちゃんと考えて決めるんだぞ?」
オレの言葉を聞いて、レンがぱぁっと笑顔になったのは言うまでもねぇことだ。
「は、い!」
いい声で返事して、可愛く飛び込んでくる華奢な体を、胸の中に抱き締める。
薄布の夜着をはぎとり、寝台の上に横たえても。深く口接けて、すべらかな肌を撫でても。レンは、嬉しくてたまんねぇって顔のままだったから……。
それが可愛くて仕方なくて、その夜はいつも以上に手加減できなかった。
(続く)
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