小説 1−8 ぷるぷるニプル・前編 (原作沿い高1・付き合ってない) 体育の時間、マラソン練習で校庭を周回してる時、途中から乳首が痛痒くてたまんなくなった。 マラソン用にって買ったスーパードライの、吸汗性のシャツが肌に合わなかったみたい。更衣室で見ると真っ赤に腫れて、ちょっと血も滲んでたからビックリした。 痛くて痒くて、ヒリヒリする。 「あー、ジョガーズニップルだなー」 そう教えてくれたのは、ハマちゃんだ。ジョギングやマラソンで、乳首がこすれて血が出たりするの、そう呼ぶんだって。割とよくある症状みたい。 「あー、オレもなったことある。痛いよなー」 泉くんも、そう言ってた。 シャツが肌に合わない他に、サイズが合ってない時も、なりやすいんだって。 「いっそ、乳首が立って見えるくらい、ピッチピチのシャツがいいんじゃねぇ?」 田島君が笑いながら言ってたけど、いくら乳首に優しいからって、ピチピチはちょっとどうかと思う。 「なー、バンソウコウ、誰か持ってない?」 ハマちゃんが教室で女子に聞いたら、1人が「これでいい?」って、ピンクのネコのキャラクターのを2枚くれた。 手渡された瞬間、あまりの可愛さにキョドっちゃったけど、親切にくれるって言うのに、断っちゃ悪い、し。「ありがとう」って受け取って、田島君に手伝って貰って、さっそく乳首の上に貼った。 「スゲー、可愛い〜」 ゲラゲラ笑われはしたけど、痛いよりはマシだし。みんなと一緒に、ふひふひ笑う。 幸い今日は、ミーティングだけの日で、部活もないし。 帰りに大通りにある大きな薬局チェーン店に寄って、もうちょっと目立たないバンソウコウ、買って帰ろうかなと思った。 ミーティングの後、田島君や泉君に遊びに誘われたけど、バンソウコウ買うからって断って、まず薬局に行くことにした。 「あ、後から合流、する」 「おー、電話しろよ」 田島君たちに手を振って、自転車置き場に1人で向かう。 そしたらちょうど阿部君もいて、珍しそうに「1人か?」って訊かれた。 「う、うん。オレ、薬局」 「えっ、どこか痛ぇのか?」 ぐっと眉をしかめられて、慌ててぶんぶんと首を振った。 「い、痛かった、けど、ケガとかじゃなく、て。じょ、じょがーずにっぷる、って」 しどろもどろに説明すると、阿部君、初耳だったみたいで「何それ?」って真顔で訊かれた。 「えっ、と、マラソンで、しゃ、シャツにこすれ、て……」 「乳首が」って口にするの、何となく恥ずかしくて、代わりにシャツを下からぺろんとめくる。 「なっ……!」 阿部君は一瞬絶句して、それから「バカか!」って怒りながらオレのシャツを引いて元に戻した。 「お前、こんなことでそんなモン見せんなよな」 「うお、ご、ごめん……」 低い声で凄まれると、謝るしかない。 そんなモノ、って。やっぱりピンクのバンソウコウ、おかしい、かな? でもこれ買ったのオレじゃないし、貰っただけだし、貼ると痛みもないんだから、おかしいって言われても困る。 「こ、こすれると痛い、から、もうちょっと目立たないバンソウコウ、薬局……」 説明を続けながら、自転車のスタンドをカタンと倒すと、「ふーん」って言いながら、阿部君も自転車を動かした。 「一緒に行ってやるよ。よさそうなの知ってっから」 「よ、さ、そう……?」 よさそうって、肌に優しいバンソウコウ、かな? よく分かんないけど、1人で探すよりは阿部君と一緒の方がいい。買い物も楽しそうだ。 大通り沿いの薬局チェーン店は、すごく広い店だった。 スーパーみたいに、ジュースやお菓子、プリンやビールとかも売ってて、お客さんもたくさんだ。 ざっと店内を見回しても、何がどこにあるか分かんない。 1つ1つ棚を見てかなきゃいけないのかな? そう思ってたら、阿部君が商品の整理をしてた店員さんに、「すみません」って声を掛けた。 「メンズの、スポーツ用のニップレスってありますか?」 ニップレス、って何だろう? ジョガーズニップルとちょっと似てるから、そういう専用のバンソウコウ、なのか? 首を傾げるオレをよそに、店員さんは「こちらです」ってにこやかに奥に案内してくれる。 慌ててついてくと、店の一番奥の端に、包帯やテーピング、ガーゼやバンソウコウなんかがズラッと並んでるコーナーがあった。 「こちらが透明で、こちらが肌色になります」 2つの箱を取り出して、説明しながら阿部君に商品を手渡す店員さん。 「じゃあ、透明で」 阿部君は即断即決でそう言ってから、オレの方をくるっと振り向いた。 「それでいいよな?」 と、そう訊かれても、何が何やらさっぱり分かんなくて、うなずくしかない。 お会計も、阿部君がさっさと済ませてしまって、値段さえも分かんなかった。結構高そうだけど、いいの、かな? 「あの、お金……」 店を出てからそう言うと、「いーよ、後で」って言葉が返る。 「それよりさ、これ、キレイに貼るにはコツがいるみてーなんだけど。教えてやるから、お前んち行かねぇ?」 阿部君に、オレんちでって言われるのは珍しくない。 試合ビデオの観戦や、試合についての話し合い。たまに勉強見て貰ったりもするし、田島君程じゃないけど、よく来る方だ。 だからオレも、いつも通り「いいよー」と答えた。 「お前んち、今日も親、いねーの?」 その問いに「うん」と答えながら、ケータイを取り出す。 ――阿部君、うちに呼ぶ―― お母さんにメールを送ると、すぐにOKメールが返って来た。 ――夕飯、食べてって貰ってね―― メールの画面をそのまま見せると、阿部君が「おー」とうなずいて、ニヤッと笑った。 時刻は5時ちょっと過ぎ。 辺りはもうだいぶ暗くなり始めてて。オレたちはそのまま、自転車に乗ってオレんちへと急いだ。 (続く) [*前へ][次へ#] [戻る] |