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独りよがり。(雲骸)
美波さんに捧げます。












寂しく死にたくないくせに、慣れ合うこともしたくない。わがまま奔放な僕の願いは何処にも届かないままに、こうして朽ちてゆくのでしょう。

寂しくなりたくないくせに、慣れ合うことも巧く出来ない。独りよがりな僕の願いはやっぱり何処にも届かないまま、結局こうして寂しく朽ちゆくだけなのです。




「僕はきっと誰にも必要とされないまま、いつの間にかこうして朽ち果ててゆくのでしょうね。」
「何でそんなことを言ってるの。」
「妙な喪失感があるのです。」


「へぇ、それはおかしな話だね。しかし喪失感は最もだ。君は元からなんにも持っちゃいないんだから。」





何にも持とうとしちゃいないんだ。
雲雀恭弥は学校行事の書類から目を離さぬままにそう言った。僕は目から鱗が落ちるような思いで、大いに彼に頷いた。


持つことを恐れていたのです。拒絶を恐れているのです。
恐る恐ると手を伸ばしたその先に、僕の全てを任せてしまうのはきっととても酷な行為で、僕自らが他人との距離に一線を画していたのが事実。

真に己の全てを受け止めてくれる人間に出会える確率なんて、この短い人生の中ではごくごく僅かなものでしかなく、喩え受け止めて貰えたとしても、結局僕は独りよがりで、自らの要求ばかりを押しつけてしまうのが関の山。
僕は出会った相手を必ずや食い潰す。それが解るから線を引く。
ではどうずれば良い。





「信じることをやめないことだね。」

「信じるとは?」
「君は馬鹿かい?僕は歩く字引でも哲学者でもないよ。そんなもの、辞書でも何でも調べてみればいい。」




雲雀恭弥はそれだけ言って、仕事の邪魔だよと、さっさと僕を応接室から追い払った。
ただ追い出され、扉を閉められ、僕はそこに佇んだ。
だけど拒絶をされたようにも思えなかった。
信じること。
これがそうなのか?
それは相手に対する最大の敬意だろう。僕にはそれが足りないのか。


ああ、足りない。
僕は大いに頷いた。





まずは何でも信じてみようか。
信じることから全てが始まると云うのなら、僕は世界の全てを信じてやろう。そうして虚しく裏切られても、それでも僕は信じていればいい。

大馬鹿者だと言われるだろうな。そんなのまるで菩薩のようじゃあないか。全く僕は世渡りが下手糞で鈍感極まりない男です。
『信じることをやめないことだね。』
ああ、信じてくれている人がこんなに近くに居ただなんて、そんな人の前で僕は誰にも必要とされないだなんて、なんて事を口にしてしまったのでしょう。





(拒絶してきたのは世間からではなく、僕の方からだったのか。)







こんにちは、世界。
これからあなたを見る目が少しだけ、少しづつだけれども変わってゆきます。

拒絶も世界、
信ずるも世界、
それで良いでしょう。
ひとまず貴方を信じますから、貴方は僕をいくらでも拒絶なさい。

それでも僕は信じましょう。



(ああ、確かに。)


信じていれば、損はないです。
僕が世界を信じていれば、独りきりで朽ちることもなさそうだ。








「雲雀恭弥、また明日。」


「もう来ないでよ鬱陶しいな。」
「メールアドレスを聞いていません。」
「明日教える。どうしたの?急に図々しくなったじゃない。」




「信じてますから。」

「気持ち悪いな。」













また、明日。



校舎を抜けた僕を照らす春の日差しは、なんだとても清々しくて、キラキラとした木漏れ日は宝石のように輝いて、なんだか全てが美しかった。










独りよがりな僕の願い。


『信じることを、やめないことだね。』




諦めないで。
歩き続けて。
僕は全てを信じましょう。














END


ずっと仲良くしてください。
私も、私自身も信じることを諦めません。



2008 03 11
森野夕












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