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走る体。(骸髑)










「僕には帰る場所だなんてどこにも無かった。」




緩やかに微笑む貴方はまるで風に乗って過ぎ去る刹那の甘い香り。
その芳香に誘われて手を伸ばす私はまるで蝶。
風は穏やかに髪を愛撫して私の瞳はそれに吸い込まれるようにして堕ちてゆく。
望んだのは私です。

体の無い貴方に。
私を切り刻んで
全て貴方にあげる。
私の四肢は貴方の四肢となり永遠に生き続ける。
私の意識は貴方の意識となり貴方の屍となり、深い海の底はとてもあたたかくて心地の良い場所だと貴方は言った。
誘われたのは私です。
望んだのは私です。
緑の木々の木漏れ日の中に貴方と私二人。
自由を奪われ人形となった私の体が貴方に侵されいくのが解る。
部品の欠けた私の体の歯車となってくれるなら、どうかいくらでも使って下さい。
切り刻んで縫い合わせた出来損ないの入れ物に乗り移って動き始める貴方の意志を、一番近くで感じさせて。
緩やかに微笑む貴方の笑顔の裏側を教えて。
もっと深くまで私の全てを侵して虜にして。
私は貴方の手となり足となり生き続ける。
何も残らなかった欠陥だらけの私の体が貴方の糧となるのであれば、私は喜んでそれを受け入れるからどうか。




「どうかこのまま私が貴方に使われることを」




望んだのは私です。

緩やかに微笑む貴方は風に乗って過ぎ去る刹那の甘い香りの如く。
その芳香に誘われて救いの手を伸ばす私はまるで醜い蝶。
風は穏やかに髪を愛撫して私の瞳は貴方の瞳に吸い込まれるようにして堕ちてゆくの。
望んだのは、私です。

体の無い貴方に。
私を切り刻んで
全て貴方にあげる。
私の四肢は貴方の四肢となり永遠に生き続ける。
私の意識は貴方の意識となり貴方の屍となり、深い海の底はとてもあたたかくて心地の良い場所だと貴方は教えてくれた。

走る体。
貴方と共に。
だからどうか、
夢か幻か希望か絶望か。
どれでも良いの。
目が覚めた時に目に入る場所が病室のベッドの薄汚れた天井ではないのなら。
それだけを切に願って。
貴方とならどこまでも。
まやかしの中で貴方と共に走るだけの体でいいから。


望んだのは私です。
私なのよ。







「骸様。」















お前を闇に誘う事に躊躇いなど感じはしない。
醒める事無い夢を。
繰り返し続く甘い夢を。
終わること無く永遠に巡り続けるだけの体を貴女にあげましょう。
今から三つ数えます。
さぁ手を伸ばして、
僕の目を見て、


可愛い屍。









(僕の可愛いクローム)












END




2009 1026
森野夕
BGM『走る体』Cocco





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