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桜ロック!(骸)















(僕は、)



僕はいつのまにか、俗に言う一匹狼のような状態に陥っていたのです。
そしてそれを認めることを拒絶し、孤独を孤独と認めぬまま片意地を張り、無意味な平静を装うことに慣れすぎてしまっていたのでしょう。


僕らしくはない言葉でしょうが、きっと寂しかったのです。





(そんなつまらない殻を破ってくれたのは、他でもない、あなた達なのですから。)









「あっ、骸!」



不意に呼ばれた名前。

あなた達の、あなたの周りに集まる、まるで太陽のように照りつけるあたたかな場所。
(僕とは無縁の、日の当たる木漏れ日の樹の下。)
制服のまま駆けてくる彼らはそれだけてひたむきで、後ろ向きな僕との違いを見せつけられる。


「久しぶり!あ、久しぶりっていうのも変、かな?えっと、なんて言うか、」
「クフフ。隣町まで一体なんの悪巧みをしに来たんですか?ボンゴレご一行さん。」
「んだとぉ!悪巧みはテメェの専売特許だろうが骸っ!」
「まぁまぁ獄寺!なぁ綱、どうせならこいつも誘わね?」


「あ…そうだね!」




何の話ですか?
僕が理解をするよりも先に、山本武は僕の腕をひきました。
駆けてゆく彼らに引かれるままに、僕もひたむきな輝きの中に引っ張り出されてゆくのです。
木陰から無理やり日向へと連れ出された僕は、この眩しさに目眩がするほど惹かれてしまう。

(ああ、)




「ボンゴレ?ちょっとっ、」
「あ、今から桜見に行くんだ。お前も、よかったら一緒に行こうよ。」
「桜…?」
「あれ?お前黒曜に居るのに知らないのか?隣町に早咲きの桜があるんだって。雲雀さん情報だから、怖いけど確実。」




そう言って少し臆病に笑ってみせるあなたは本当に変わらないのだ。

自らの知らぬ所で始まっていた、自らを中心とした悲惨な未来を拒むでもなく立ち向かい、ひたむきに走りつづけるあなたの背中は頼もしい。
頼もしく、大きく、まるで大木のように大らかに枝を伸ばして。

僕は、


(僕は、)





「オラ走れよっ!」
「いたっ…!」
「ははっ!骸がいたっ!って、なんかおもしれーな!」
「面白くないって山本!!って言うか蹴るのやめようよ獄寺君っ!!」
「う、じ、十代目のご命令とあらば。では殴ります!」
「わかってない―――っ!!!!」






「・・・・」










僕は、

(無茶苦茶だ…。)


求めていた。
日の当たる場所。
あたたかな希望。
無茶苦茶な楽しさ。

ささやかなものでも、なんとなくでも、根拠も無い不確かで儚いひとときだけのものでも、
それでも何故か勇気づけられる木漏れ日のようなあたたかさを。


(僕は――)






「君たち、遅いよ。」

「ひひ雲雀さん――――!?来てたんですか!?」
「来ちゃ悪い?僕が教えたんだ。僕の場所なんだから監視するのは僕の役目に決まってる。」

「ツーナさぁーん!」
「綱くん!!」
「京子ちゃんにハルも!?」
「あのね、お兄ちゃんについて来ちゃった!」
「おーう沢田!!お前等今日も極限にダッシュだな!」
「お兄さんー!?」
「ガハハハ!つーなー!!ランボさんも居るもんね!イーピンのうんこー!」
「………!!!」







僕は、


こんな場所に、
こんな光に、
こんな、
ここに居ても・・・






「早く来なよ。咲いてるから。」






(居てもいいのですか?僕が、こんな場所に、こんな僕が、)



雲雀恭弥が僕を見た。
今日は免除してあげるよと言いたげに、黙認するように僕から目をそらした彼は桜を仰ぐ。

早咲きの桜はあった。
まだ肌寒い季節に立派にそびえ立つ桜の樹はとても大きくて。
桜色の一枚一枚が、春風に乗って香りを届けてくれる。
(沢田綱吉、)
あなたの元にいつの間にか集まっているたくさんの仲間達は、一斉に桜を見上げて声を上げる。

にぎやかに華やかに
きらびやかにその場を彩る彼らこそが桜のように美しい。
(沢田綱吉。)
あなたの元に咲き誇る桜の花びら達は、あたたかに緩やかに春の風に身を任せて。

そして、










「何してんだよ骸!はやく行こう!」
















(ああ、)


ああ、何故でしょう

泣き出したくなる。
僕らしくないことは百も承知なのです。
そんなのわかっているのです。

それでも、それでもこの焦がれるような桜の色は大らかに僕をも包んで照らしてくれる。
あたたかい。

いつの間にか、
まるで幻のように、いつの間にか駆け出す彼らに引かれるままに、僕もひたむきな輝きの中に引っ張り出されてゆくのです。
木陰から無理やり日向へと連れ出された僕は、この眩しさに目眩がするほど惹かれていて。





(ああ、)














ありがとう。


なんだか無性にそう思うのです。


すべてに、
すべての日向に感謝の気持ちを込めて、このあたたかな日々を僕は必ず記憶します。


(忘れはしない。)




見上げた桜も
騒がしい周囲も
春風に香るあたたかさ
僕のささやかな感動を、あなた達はひとつも気づいていませんね。
こんなにすべてのものに感謝が出来るなら、もっと早く、もっとちゃんと向き合うべきだった。


ありがとう。
皆さん、
すべて、
桜もなにもかも。


雲雀恭弥のおもしろくなさそうな仏頂面。
獄寺隼人と山本武の飽きないやりとり。
少女らの華やかな笑顔。
その少女の兄が叫ぶ訳の分からない今年の抱負。
幼い子供らの駆け回る日溜まり。


沢田綱吉の、あたたかで大らかな大木のような笑顔。
飛び続けていた僕を休ませてくれる頼りなさげで頼りがいのある桜の大木。






「骸!テメェ十代目からのせっかくのお誘いを無視しやがって!」

「獄寺くんー!ダイナマイト出すのはほんとやめてったらーっ!」

「ははは!お前いつも花火持ってんだなー!」















(ありがとう。)




いつまでも。

あなた達を、このひとときを、僕は忘れはしないでしょう。















(僕のつまらない殻を破ってくれたのは、他でもない、あなた達なのです。)













すべての人たちに


僕からありったけのありがとう。







END



訪問してくださる皆様に感謝の気持ちを込めて捧げます。

2009 0318
森野夕。











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