蒼い世界に指切り
第3話
ただ待つことが出来なくて、少女は駆け出した。
ほんの少し前の事。
――あのひとは、軍を率いて西へと向かったらしい。
いつきの元に、隣の村の隣の村の、そのまた隣の村の仲間からの知らせが届いた。
「いつきちゃん、本当は一緒に行きたかったんじゃないだか?」
「そんな訳ねえだ。それに、おらは・・・おらはここを離れる訳にはいかねえ。おらはここでみんなを守る務めがあるだ。」
「でも、・・・いつきちゃん、今ならまだ間に合うべ。」
「あのおさむらいを追いかけるなら、今しかねえだよ。」
「おらはここにいる・・・。
約束したんだべ。後は信じて待つのがおらの役目だ。」
それに・・・彼について行くだけの理由が本当に自分にはあるのだろうか。少女はそうも思っていた。
「待つ事だけが“信じる”とは限らねえだよ。」
(え・・・・・・)
「そうだべ!いつきちゃんなら、あのおさむらいと一緒に天下を獲るのも夢じゃねえだ!」
「村はオラ達が絶対守るだよ。だから、」
「行っておいで、いつきちゃん。」
(みんな・・・・・・)
ほんとうは
もう“待つ”だけなんて耐えられなかった。
だって、
今度はいつ会えるかもわからないのに・・・・・・
「みんな・・・ごめんな。ううん、・・・ありがとな・・・。
必ず戻るから・・・。だからそれまで無事でいてけろ・・・!」
ただ待つことが出来なくて、少女は駆け出した。
夢を果たすその時を、・・・あの人と一緒に迎えたいから・・・。
風が 止んだ
「君が一揆衆の頭だそうだね。」
「誰だ・・・おめえさん。」
声の主は、雪のように白い綺麗な青年であった。
「まさか、こんな子供だったとはね・・・。」
その青年は顔を仮面で覆っていて、その奥の瞳は感情を捨てたかのような冷たい眼差しをしていた。
その得体の知れぬ雰囲気に、いつきは無意識に木槌を構えていた。
「おめえさん、おら達の村から出ていくだ・・・。」
「君達に危害を加えるつもりは無いよ。秀吉の作る未来に協力してくれるのならばね。」
ひでよし・・・?
「おらが約束したのはただ一人だ・・・。おらが信じているのは青いおさむらいだ・・・。」
「そう。先約がいるのかい。―――残念だよ。」
引き抜いた刀が雪解けの大地を蝶のごとく舞った。
その頃。
西へと向けて出発した政宗は、馬上で呟いた。
「――もう一度、顔を見とくんだったな・・・。」
「政宗様、何か?」
「・・・いや。」
また、いつでも会えるしな。
<続く>
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