似非スマイル(a*k)




*アレ神*



「ない!ない…っ!」
朝から自分の左薬指と睨めっこ。
そこにあるはずのものがないのだ。
神田は鏡に映った覇気のない顔を見て盛大に溜息をついた。



*********

『幸せになりましょうね』
気障な台詞で嬉しそうに笑う目の前の似非紳士。
自ら嵌め込んだ指輪に口づけを落としたかと思うと得意の上目使いで見上げやがった。
人がその仕種に弱いのを知ってる確信犯だけに質が悪い。
わかっていても胸が跳ねる自分もどうかとは思うが仕方ない。なんだかんだいいつつ自分はコイツが好きなんだと自覚するのはこんな時。

任務のさい立ち寄った街にあった小さな教会。引きづられるように入ったそこで二人きりで上げた秘密の儀式。
永久に、なんて歯の浮くような台詞で愛を誓った。

懐から小さな箱を取出して開けたかと思うと銀色に輝くそれが鈍く光った。
「手を」
戸惑い右手を出しかけたら、違いますよと苦笑され左手を取られた。
「あぁ、良かった。ピッタリだ」
まるで誂えたかのように手になじむそれ。
街中でいきなりいなくなったのはこれを買っていたからか。
戸惑いに揺れる瞳に安心させる笑みを浮かべ『幸せになりましょうね』とあいつは笑った。
「…俺は何も用意してない」
こいつは何でこんなにも急なんだ。自分だけが何もないのが苦しくて小さく吐き出すと目の前に箱が差し出された。
「?」
「開けて」
言われるまま開ければそこには自分がつけた物と同じシルバーリング。
「!」
「神田が嵌めて」
目の前に差し出されるアイツの左手。
「…この気障モヤシ」
舌打ちしながらも俺はアイツの手袋を外しその左薬指にそれを嵌めた。

祝う者も形式もないものだけど、それは確かに永遠を誓うものだった。

********

そう。その形となったものが見当たらない。
任務がないときどちらから言ったわけでもないが付けるのが当たり前となっていた。
昨日は何をしていた?確か酒を飲むことになり飲んでいたとこまでは覚えている。だが自分の部屋に戻った記憶がない。
「最悪だ…」
自分の記憶をフル活動させるがどうにも思い出せそうもない。
もしかしたら部屋までの通路に落ちてるかもしれないと急いで外に出た。



「チッ、ここにもねぇ…」
「何がですか?」
「ッッ!?」
背後の声は今最も会いたくない人物のもの。聞こえないふりをしてやろうかと思ったがそれすら出来そうもない。
「モヤシ…」
「アレンですってば。何か落としたんですか?」
「いや…、何も」
罪悪感から視線をそらし急いでその場をあとにしようと身を翻した。が、その腕はがっちりと背後の人物に捕まれていて。
逃げられない事に神田は大人しく諦めて全てを話した。


「神田」
全てを聞き終わった後の一言に神田は小さく肩を震わせる。
「しょうがない人ですね」
「モヤシ?」
「…で、終わらせると思いました?」
その笑顔が凄くムカつく。だが無くしたのは紛れも無く自分。
「だから今探してる」
「そうじゃないんですよ。神田」
見つければ良いというものではない。暗に含ませられる。
そんなことは十二分にわかっている。
「僕はとても傷つきました」
とてもそうは思っていない業とらしい溜息と表情。だが文句をいえる立場じゃないのもわかっているから睨むことしか出来ない。
「慰めてくれますよね?」
確信犯の笑みで逃げ場をなくされた。






「最悪だ…」
本当に。
痛む腰に、罪に痛む胸に、羞恥心全てが今の神田にとっては最悪を構成する一つでしかない。
やさぐれてる自分に後から抱き着きながらうなじにキスを繰り返しているモヤシにいい加減にしろよっ、と引きはがそうと腕を伸ばした。
その手はスルリと搦め捕られシーツに押し付けられる。
「っのモヤシが!調子に乗るな!」
「ふふ、すいません」
そして唇を塞がれる。そのキスに酔いしれていると冷たい何かが左薬指に触れた。
「?」
不思議に思い確かめるとそこには鈍く輝く無くしたはずのそれ。

「………おい」
「はい」

にこりと微笑む笑顔に迷わず拳を握りしめた。




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