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ピッ!

プップップという小さな発信音。

プチ。

一回も鳴らないうちに手に握った小さなそれを閉じる。

ついで漏れたのはため息とともに出た「根性なし」という小さな呟き。


パカッと閉じたはずの携帯を再びあけ暗闇に浮かぶ何の変哲もない待受を見つめる。

「忙しい、よね?」

誰に聞くでもない自分に言い聞かせるそれ。

今日は2月13日。
明日は乙女が頑張る一日だ。

そして明日限定のイベントを取り仕切る彼も今頃寝ずに走り回っているはず。
明日は会う約束はしている。

けれど。

それも多忙な彼がなんとかもぎ取った数日ぶりの逢瀬。
明日会えるんだから、という気持ちと我慢していた分今すぐ声を聞きたいという我が儘が拮抗する。

何度も履歴を辿っては元通りを繰り返す。
もう数十分そんなことを繰り返し、やっと意を決して押したボタンは自ら閉じた。

「〜っ…、寝よっ!!」

ふて腐れすっぽりと布団を頭から被る。

 〜〜♪〜〜♪

「え?!」

突然鳴り響いた音にびくりと肩を震わせ慌てて音源の携帯を手に取る。

「嘘…」

ディスプレイに映し出されたそれは紛れも無い彼のもので。
わたわたと意味も無く居住まいを正し、切れる前にと慌てて通話ボタンを押した。

「も、もしもしっ」

声裏返ったっ!ちょっと恥ずかしい。

『モヤシ?』
「モヤシじゃないです!アレンです!」
『なんだ、元気そうじゃねぇか』

拍子抜けしたような彼の声。

「何ですかそれ!」

元気じゃないほうが良かったとでも言いたいのか。

『ちげぇ』

思考を読み取ったかのような一言。

『その、なんだ』
「?」

彼にしては珍しく歯切れが悪い。

「神田?」
『…、お前がこんな時間に電話してくるなんて珍しいだろ?』
「えっ!?」

しまった!発信する前に切ったと思ったのに着歴にしっかりと残っていたようだ。

「ご、ごめんなさい!」
『は?』
「神田忙しいのに…」

明日会えるというのに。声が聞きたいと思ったのは本当。だけど神田を煩わせたくなかったのも本当で。
申し訳なさから謝ると電話の奥で先程より不機嫌な声で、ちげぇ、という台詞と舌打ちが聞こえた。

『お前はもっと我が儘を言え』
「え?」
『…お前からの着歴みて嬉しいと俺は思った』
「…」
『お前が俺を思ってくれてるんだと思ったから。声を聞きたいとき電話してきたらいいし会いたいと思ったら言って欲しい。変に遠慮される方が傷つく』
「神田…」
『それに、お前は俺の「恋人」だろ?』

神田にプライベートで我が儘を許されたただ一人の特別。

「うん…。うん…。」

少し涙声で何度も頷く。

『明日は遅くなるかもしれないが絶対に時間あけるから』
「うん。神田に会いたい」
『そうか』

その声は随分と優しい。

『俺もお前に会いたい』

耳元で囁かれた台詞に顔が赤くなる。
あんないい声で言われたら誰だって赤面するに違いない。

「〜〜〜ッッ!おやすみなさいっ!」
『えっ?おい…』

アレンは上擦った声を上げ恥ずかしさから思わず電源ボタンを押していた。

「不意打ち過ぎる…」

熱くなった頬を両手で押さえ、アレンは大きく息を吐くと再びベッドへと潜り込む。


眠気がくるにはもうしばらく時間がかかりそうだ。





深夜25時のコール音
 (もしもし、この声が届くなら)



お題はHENCEより





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