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※アレン嬢。パラレル




「いーかげん決めてくれないと困るさ!」

バンッと目の前で勢いよく机をたたき付けたラビに冷たい視線を送った男はわざと溜息を大きくついた。

「るせぇ。俺はンなこと興味ねぇ」
「興味あろうがなかろうが五日後には決めてもらわねぇと世界が滅ぶってーの!」
「こんなくだらねぇ世界消えちまえ」

目の前で地だんだを踏みはじめたラビを横目にこの国の最高権力者ー。魔王その人は『自分のせいで滅ぶ』といわれた穏やかな町並みをみて苦々しく呟いた。

「またんなこと言ってぇぇぇーっ!!」

ラビは泣きながら頭を抱えた。
今この世界は滅びの道を辿りつつある。
この目の前に座る男のせいで。
自分が住む魔界ウィルデは先代の魔王が各地で起こっていた争いを静め平和な時代が数百年続いた。いや、今も平和ではあるのだ。見た目的には。

先代が亡くなって現魔王が就任してから四百年。

この世界は前魔王の契約により四百年の平和を保っていた。
ただその平和は一時のもの。
新魔王がまたその契約の更新をしなければいけない、のだが。

それには条件がある。

自分が愛する者と同席すること。
くだらなく思えるかもしれないが一人を愛する事も出来ない者にこの世界の平穏を願う契約など出来ないという考えから。

その契約が切れるのがあと五日後。

これまで幾度となく様々な女達と会う機会を設けてきたものの魔王の目に止まるものは一人もいなかった。

世界を守るための束縛。
我慢すればいいのだろう。自分一人。
だが一時の快楽ならまだしも守りたいと愛しく思えもしないものを常に側に、など。
本気でこの世界が滅べば良いなどとは思っていない。
ただ、先代が勝手に決めたその契約が神田は気に入らない。

その契約が切れたのなら違う方法で自分が契約をすればいいと思っているだけだ。


地だんだを踏みひたすら文句を言い募るラビをちらりと見た後神田はその場から姿を掻き消した。






「全く…。確かめてもねぇのに滅ぶと決めやがって」

神田は舌打ち一つ、今は質素な服に着替え街中を歩いていた。
行くあてなどなく思うままに足をすすめながら。先程の下臣達の様子を思い出し眉間に縦にくっきりとシワが刻まれる。

神田には起こってもないのに先代の言葉に躍らされているようにしか思えないのだ。

確かめもせず一人犠牲になれば確かになんのリスクもなくまた数百年と守られるのであろう。この世界は。

神田はふと足をとめ澄んだ空を見上げた。

小鳥が囀り、人々は日常を日々生きている。

「一人の平和か大勢の平和か…」

先代もめんどくさいもん残しやがって。そう一人ごちた瞬間、どんっと誰かがぶつかってきた。

「あっ!ご、ごめんなさい!」

耳に心地良い澄んだ声が響く。
うす茶けたボロボロのマントを頭からすっぽり被ったそいつは軽くお辞儀をすると慌てたように走り出した。

「お「いたぞっ!こっちだっ!!」」

呼び止めかけた声は背後から聞こえた怒号に掻き消された。

そこには体格のよい数名の男達。みなりからもどこぞのごろつき者だろう。
神田は不愉快に眉を潜めるとその男達のゆくてを阻み、一瞬にして叩き伏せた。

「俺の領地で馬鹿な事してんじゃねぇよ」

地面に転がる男達に涼しい顔でそれだけ言うと神田は先程の人物が走り逃げた方へ足を向けた。



「ここまできたらどうにか…」
「なるのか?」
「っ?!」

細い路地裏に隠れるように小さく縮こまっていたそいつ。
余程驚いたのか体ごと跳ねさせた瞬間に頭を隠していたフードが外れた。

白い。

初めの感想はただそれだけ。
光に透けそうな白い肌にプラチナブロンドの輝く銀糸の髪。
大きく見開かれた瞳は透明な湖面のように澄んだ色。

「お前…」
「やぁっ!」

一歩近づけば逃げるように後ずさる。

「何もしねぇよ」
「?」

怯えた様子に安心させるように両手を上げて言えばおずおずと覗き込まれた。
その瞳に吸い込まれてしまいそうだ。

「本当に?」
「あぁ」
「さっきの人達は…」
「あいつらなら俺が追い払った。それよりお前、人間だな」
「…はい」

きゅっと細い指がマントを握る。


人身売買。

噂には聞いていた。何度かそれらを撲滅するための政策もしてきた。ただどのようにしようとも細い網の目をくぐるようにひっそりと行われていたそれ。
特に人間界から拐れた人は後をたたず非合法に働かせられているらしい。

これのどこが「平和」だ。

神田は忌ま忌ましさから舌打ちが出た。
それを見ていた目の前の人物がびくりと肩を震わせる。見た目が麗しすぎるその顔が不機嫌に歪められていると迫力も半端ないのだ。(本人に自覚はなくとも)

「こい。途中までなら送ってやる」
「いいです」
「は?」
「あっちには帰る家もないですから…」

俯いたその頬に小さな雫が零れた。


「…お前名前は?」
「え?」
「名前だよ。な、ま、え」
「…アレン。アレン・ウォーカーっていいます」
「アレン。アレンか…」

宝物のように口の中でその響きが広がる。

「よし。決めた。アレンお前今日から俺のところにこい」
「は?」
「それともまたあいつらに捕まって顔も知らない奴の家で働かせられたいのか?」
「それはっ!いや、です」

勢いで逃げ出したものの行くあてなどもなかったのだろう。
アレンの顔は見る見るうちに歪み声も小さくなる。

「ちょうど良い仕事があるぞ。三食昼寝つき。あったかい寝床もある」
「なんで…?」

そこまでしてくれるのか、と視線が語る。
神田は内心にやりと笑うとそれを感じさせない表情で

「困った奴をほっとけない質なんだ」

と飄々と言い放った。

「いい人ですね!あ、えっと…?」
「神田。神田だ」
「カンダ…。うん神田。とてもいい人!」

アレンは嬉しそうに笑顔を浮かべると神田の名前を繰り返し呼んだ。
鈴のなるようなその声が自分の名前を呼ぶ度神田の心にじわりと暖かいものが広がる。


この数十分後。

「こいつを花嫁にする」

宣言により、喜ぶラビを始めとした下臣達と、驚きに目を見開いたアレンの姿があったのは言うまでもない。


そして新魔王が本格的に治める構えを見せてから非合法の人身売買も姿を消したのであった。
(魔王の奥方が人間ということも大きかった)



魔王様の婚約宣言

(そんな事聞いてない!)(いいだろ?幸せにしてやるよ)





お題はChien11より






あきゅろす。
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