080. 少女
※アレン嬢※
「ばれてはいけないよ」
それは遠い昔のいいつけ。
なんで?と聞きたくても何だか聞いてはいけないような気がして少女はこくり、と頷いた。
アレンはぱちりと目を醒まし今の現状を把握する。
見慣れた天井と今だ見慣れない横に眠る黒。
あぁ、そうだった昨日自分は…。
はぁ、と小さく溜息をつきアレンは横を向き自分の体を丸めるように抱えた。
夢に見たのは幼い自分とマナ。
彼が再三言い聞かせてきた言葉はいつからか自身を守る為だという事を自覚してから殊更注意して生きてきた。
自分が女であるという事すら忘れる時がある程自分自身すらも騙して。
なのに……
彼に恋するなんて。自分が恋等というものには無縁だと思っていただけにその衝撃は大きかった。
しかもそんな初めての思いをもった相手と今は恋仲。
「はぁ…、マナごめん」
何に対する謝罪なのかもわからないまま胸に沸く罪悪感から口から出た言葉。
その瞬間背後から伸びてきた大きな手に身体を搦め捕られ引き寄せられた。
背中に感じる温もりと肩口にかかる小さな吐息。
「ここで他の野郎の名前言うんじゃねぇよ」
その刺激に知らず身体がくねるが、お腹の前で組まれた腕は緩まない。
「養父ですよ?」
「養父だろうが男に変わりはねぇ」
なんて事を言うんだろうかこの男は。
可笑しくて、ふふ、と笑うとさらに腕に力が篭められた。
「どうせ呼ぶなら俺の名前にしとけ」
そういうなり耳朶を甘噛みされた。
「ちょっ、神田っ!」
慌てて、首だけで背後を振り返れば捕らえていた腕が緩みアレンの向きを変えさせる。
シーツでなんとか隠してるとは言え彼の目の前に全てをさらけてる状態な訳で。
知らず顔に熱が上る。
「今目の前にいるのは俺だろ?」
さらり、と銀髪を撫で神田はアレンを促す。
その大きな手を少し擽ったそうに享受しながら、少女は嬉しそうに彼の名を呼んだ。
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マナにヤキモチ焼く神田☆
アレン嬢はなんだか照れますね。でもやはり女の子だから少しだけ弱さを出しやすかったり…。