048. 沈黙
「なぁ、何を隠した?」
部屋に入る直前いきなり腕を捕まれ引きづり込まれたのは廊下の隙間。
捕まれた人物が誰かわかるとアレンは慌てたように何かを隠した。
その様子に神田は面白くなさそうに鼻をならすとアレンに顔を近づけ、見せろ、と囁く。
アレンは頭を振ってその場からじりじりと壁に背を宛てて逃げようと試みたが、逃げかけた道は先に神田が壁に手をつき、神田の両腕に塞がれてしまった。
腕の下からなんて無理かな…と、そろりと視線をずらせば計ったように神田の足が伸びて来て膝を壁につけた。
そしてその分だけ近くなる距離と感じる圧迫感。
「談話室でずいぶんと楽しそうにしてたじゃねぇか」
耳元で囁かれた言葉に小さく肩を震わせ恐る恐る神田の方を見た。
「!!!」
そこには作られた笑みを浮かべる神田。
そんなにも怒らせるようなことを話していただろうか、とアレンは慌てて思考を巡らすが思い当たるようなことはなく何を言って良いかもわからず、とりあえず嫌な汗を覚えつつ沈黙を貫くことに決めた。
「寄越せ」
「あ!」
思考に気を取られた瞬間、伸びてきた手に気づかず背後に隠していたものを取られてしまった。
「か、返して下さい!」
「………」
必死に腕を伸ばすアレンを他所に神田はそれを見た途端、複雑な表情を浮かべ一瞬固まったかと思うといきなり、それをビリビリッと破り捨てた。
「あぁあぁぁぁーーっ!」
アレンは悲痛な叫び声を上げて紙屑と化し散ってゆくそれを目線で追いかけた。
「あんのクソ師匠っ!」
神田はドカッと壁に蹴りを入れたあと、うなだれているアレンに視線を向けた。
談話室でティエドールと楽しげに話している姿を見かけその会話に自分の名前が出ていたことに気になって来てみれば、いかにも何かあるといわんばかりの態度。
思わず突き詰めてみて見れば…。
「なんで、んなもんまだ覚えてんだよ…」
アレンの手にあったのはマリとディシャと出会った頃のまだ幼い時分の自分の似顔絵。
誰が描いたかなんて、言わずと知れるそれ。
「せっかく描いてくれたのに…」
「肖像権の侵害だ」
全くあの親父はろくな事しねぇ…と文句をぶつぶつ呟いていると紙屑を眺めていたアレンは、いきなり立ち上がり神田に振り返った。
「思い出を覚えてくれてる人がいる幸せをもっと大事にしてください」
その視線は何時もにもなく深く怒りを湛えた色を含んでいて神田は思わず言葉に詰まる。
何かを言おうにも、適した言葉は思い付かず、ただ沈黙だけがその狭い空間に広がった−。
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ギャグのはずがなんでこんな喧嘩になってんだか…orz
本気で怒るアレン君はうちではちょっと珍しい。
まぁこのあとアレン君はまたティエドールに描いてもらってこっそり隠して眺めてるんですよ(笑)
たまにはアレン君に怒られて弱い神田を書いてみたかったのです(えー…)