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057. 約束






「うぅ〜;お腹すいたぁ〜」

アレンは火の落とされた厨房へと入り、何かないかと周りを見回した。

食事の前の鍛練がいけなかった。久々に限界まで動かした体は休息を求めそのまま深い眠りへと誘(いざな)われてしまったのだ。

しまった!と起きた時にはすでに真夜中で…。

一瞬我慢しようかと思ったが、この空腹はどうにも収まりそうになくアレンは部屋を抜け出して今に至る。

ガチャガチャと探っていると、ぱちっという音とともに室内全体に明るい光が燈された。

「何やってんだモヤシ?」

そこには呆れたように立っている神田がいた。アレンはとりあえずご飯が食べたい事を伝えると神田はじゃあ、ちょっと待ってろと、何かを取り出しはじめた。

大きなボールに粉と水を入れ手でこね始めた手つきを不思議そうに見つめる。

「パン?」

だとしたら醗酵時間を考えても己の腹は持ちそうにない。

「ちげぇよ」

神田はその間ももろもろになった塊を一つにまとめ上げてゆく。その手つきに無駄はなく一つの大きな塊と姿を変えた。

板に、粉を撒くと神田は麺棒を取り出し空気を抜いたその塊を伸ばし広げてゆく。
そしてその間にアレンに鍋に湯を沸かすように指示をだす。
アレンはとりあえずご飯のため、と慌てて言われたとおりに動いた。
神田は生地がほぼ正方形になったところで間に緩く粉をかけながら八つに折り畳み、それに板を乗せ、トントンっと数ミリ程度の細さに切ってゆく。

あ、これって…

アレンは見慣れた形に想像がついた。
切り終えたものをしっかり沸いたお湯にいれて湯がき、浮き上がり後しばし待ち掬い上げると水にさらす。

「よし」

神田は出来に満足したのか何処か得意げ。
ちょっとその様子が可愛くて笑ってしまいかけたけど機嫌を損ねたくなくて必死で我慢した。

そして出来上がったものは−−


「さすがに揚げもんまでは出来ないが…」
「いいえ!十分です」

目の前には笊に山と盛られた蕎麦。
つゆは出来合いのものがあったので、薬味を添えただけのシンプルなものではあったが、今のアレンには食べられるだけでも幸せだ。

しかも…

(神田の手作り…)

アレンはにやけそうな頬を軽くつねり必死に引き締める。

「どうした?」
「何でもないです!いただきます!」

パンと両手を合わせてアレンはフォークを構えた。(箸はまだうまく使えない)
神田の視線は心持ち緊張気味。
アレンの一口目を思わず見つめてしまう。

アレンはフォークでパスタのように巻いた蕎麦をつゆにつけてパクリと食べた。

「う〜〜!美味しい〜!」

アレンは頬を綻ばせる。
その表情に神田の頬が緩んだ。

アレンはそのまま、着々と山盛りの蕎麦をひたすら食べていく。



「飽きたか?」
「へ?」
「食べるペースが遅い」

あと半分ぐらいの所で神田がふと聞いてきた。
いつものアレンならば、ものの10分で空にしている量である。
一瞬本当は口に合わないのに無理して食べていたのではないか?と疑問がよぎった。

「…無理して食わなくていい」
「…もったいないじゃないですか」
「俺が明日食うからいい」
「違いますよ」
「?」

やはり無理していたのかと内心苦々しく思ってでた言葉は否定された。
アレンは戸惑ったように視線を動かしたあと恥ずかしそうに伏せた。

「せっかく神田が作ってくれたのに急いで食べたらもったいないじゃないですか」

しっかり味わいたいんです、とはにかみながら言われて、頬にじわじわと熱が溜まる。


思わずごまかすように舌打ちをして、顔を背けた。

ちらりと窺うようにアレンを見れば、最後の束を名残惜しそうにつゆにつけてる姿。
小さな子供が大好物が無くなってしまうような表情に心がくすぐったくなった。

「…また、作ってやるよ」

気付いた時には思わずつぶやいていた。

「本当ですか?」
「あぁ」
「楽しみにしてますね」

そう言ってアレンは最後の一口を美味しそうに食べた。




−−−−−−−−−−−−−

アレン君が食事に来なかったのを心配してた神田です(笑)

いつか書きたいと思ってた蕎麦ネタ。趣味が蕎麦打ちだから(笑)

複合型で最初はバレンタインで考えてたけどうまく繋がらなくて没。次は神田誕で使おうと思っていたのに書き進めていたら掠りもしなかったという苦い思い出(笑)だからお題ゆきとなりました(;´-`)





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