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死神、逃げる



「すまなかった、反省している。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさーい」

「もっと誠意を見せやがれ」

「ごめんなさい」


和歌の貧弱なキック(必殺奥義らしいが)をスルリとかわし、誠意がまるでみえない謝罪に睨みをきかすと、すんなり土下座をして謝られた。案外扱いやすいなこいつ。


「なんで信じてくれんのだ」

「お前それしか言わねぇな」

「他の者は信じてくれた。…というか、私を怖がっていたのに」

「俺はそこらの奴らとは違う」


煙管に火をつけ、煙を肺いっぱいに吸い込み、隣で怪訝そうに首をかしげる和歌の顔に煙を吹きかけた。
煙のせいで赤くなった目に涙を溜め、ゴホゴホと咳込む和歌は、糸がプツンと切れたかのようにその場でジタバタと子供のように暴れ始める。


「あーもう気に食わーん!家出だ家出」

「なにが家出だ不法侵入者。さっさと家帰れチビ」

「高杉のボケー!」

「テメェ、ほんと学習しねぇやつだな…」


わなわなと込み上げる怒りを抑え、和歌の襟元を掴み引き寄せる。
がしかし。さっきまでの鈍臭さはどこへやら、まるで猫のようにするりと手元から離れ、窓際まで猛烈ダッシュした。


「ふっ、お前ほんとバカだな。もう逃げ場はねぇぞ」

「ふんっ、バカめ。ここから出るんだ」

「…お前ここが何処だか知って言ってんのか。ここは船の上、落ちれば海……ってオイ!」


俺の話しを最後まで聞かずに、和歌はなんの躊躇もなく窓から飛び降りた。
急いで窓際に駆け寄り外を覗くが、生憎今は夜中。ライトを付けない限り海の様子は窺えず、暗闇の中から一定に打つ波の音だけが俺の耳に届いた。


「あいつ、本物のバカか?」


死神、逃げる



END
20100522





あきゅろす。
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