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05.犯してはならない罪



先生との残された時間はあっという間に過ぎてゆき。そして今週末、先生はこの学校から、この街からいなくなってしまう。
式の前日。
いつものように来てみたけれどそこには先生の姿は見当たらなくて。
空虚感が私を支配した。

「忙しいんだろうな」

机の上にはもう何も残ってない。
だけれども私が使っていた折りたたみの椅子だけは机のすぐ側に立て掛けられていた。
処分、そう書かれた紙が貼られた段ボール。その中には使わなくなったであろう教材の数々が積み上げられていた。
テキスト片手にどきどきしながら通った頃を懐かしく思う。

「あ…れ?」

感傷に浸りながら室内を見渡していると、先生の荷物であろう紙袋がぽつん、と隅に一つ。
何故だか、本当に自分でも何でなのか分からないけれど、気付いた頃には吸い寄せられるようにして紙袋の目の前まで来ていた。

(…あ、これって、)

目をやると以前見せて貰った学生時代の集合写真。
先生の、大事な人達。
まだあどけなくて素直じゃなさそうな昔の先生。きっとこの頃の先生も今と変わらず口が悪かったんだろうなあ、と苦笑する。
隣りにはバッテリーを組んでたであろう人、この人か…先生の苛々の元だと言われてる可哀相な人。
一人ずつ、ゆっくりと目に焼き付けながら最後に映る、右端にいる女の子。

(…阿部先生……)

ずきり、と痛む胸を押さえて涙を堪えていると廊下から聞こえる話し声。先生と多数の女子生徒。
最後のお別れの挨拶なんだろう、可愛らしくも悲しそうな声が耳に入った。
私は咄嗟にその写真をポケットにしまい込んで窓枠を勢い良く乗り越えた。気付かれないように、と窓の下に身を隠して。
―ガラッ。
開かれた扉の音と共に流れ込んで来た先生とたくさんの生徒達。こちらからでは先生の姿を捉えられないくらいにごった返す人の波に私は苦笑するしかなかった。






あきゅろす。
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