09.既視感に近いなにか
「何だったんだろうねーさっきの人」
友人達がけらけらと笑い合う中、私はただ一人肩を落とした。
タイミングの悪さから先ほどの話を掘り返す事も出来ず、疑問だけがぐるぐると駆け巡り。
正直、今の私にはこの場の盛り上がりにもついていけなくなっていた。
テンションの下がった私を察してか、友人は「お手洗いに行ってくる」と口にして強引に手を引いて歩き出した。
賑わう店内の廊下を奥へ奥へと進んだ頃、やっと友人から出た言葉はごめんね、の一言だった。
「なんで謝るのさ、気にしてないよ。いつも断ってたのは私の方だし」
「**名前**…」
心配そうな表情で見つめられると、何だか逆に罪悪感が生まれて言葉に困った。
誰も悪くなどないのだけれど。
「見てっ、あの人!」
唐突に肩を数回叩くからどうしたものか、と友人の指が示す先に目を向ける。
奥まった半個室のテーブルにサラリーマン風の男性が楽しく呑んでいる姿。それは至って普通の事だけれど。
そこに腰掛ける内の一人が、つい先ほど私達の部屋に飛び込んで来たお兄さんだった。
「あいつおせぇなー」
先ほど部屋に来た時の焦った表情とは正反対で笑うお兄さんに、友人は隣で小さく喉を鳴らして笑っていた。
釣られて私も笑ったけれど少し酔ってしまったのか、頭も動かずにただ凝視したまま固まってしまう。
右端の人は大きくてキレイな瞳。きっと女の人にモテるんだろうなぁ…
その隣りの人は…何だか挙動不審。変な人だなぁ。
なんて、特に意味のない事を考えいたらお兄さんと目が合ってしまった。
かなり酔っ払っているのか覚束ない足取りで私達へと近付いてくる。そしてそれを止めようとする坊主頭の人。
「お詫びに一杯おごるってー」
「っおい!田島っ!んな恥ずかしい事してんじゃねぇ!」
「ちぇーつまんない」
―――その光景が、何故だか微笑ましくて、とても懐かしい感じがした…
(きっと飲み過ぎたんだ)
そう自分に言い聞かせて友人の手を引いた。
★:)next...
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