08.高鳴る胸と期待の影 「**名前**ちゃんも教えてよー」 「んー何を?」 「アドレス!駄目かなぁ?」 「あー…いや、いいよ」 「お、まじで?じゃ、赤外線!」 「あ、あぁ…はい。」 相手任せに携帯を差し出すと嬉しそうに携帯同士をくっつけ合う姿が目に映り、それが何だか妙に面白かった。 ―いいの? 隣から小さく耳打ちしてきた友人の声に言葉を返そうとした時、赤外線をしていた筈の相手の携帯電話から懐かしい、忘れる事のないメロディーが流れてきた。 "大切な人の為の、曲…" 私がずっと憧れ続けて何度も先生に頼み込んだ名前も知らない、その歌詞の意味すら分からない曲。 それをまさか、こんな所で、こんな形でまた聞けるなんて思ってもみなくて。感動とたった一つの疑問を抑え切れずにテーブルに身を乗り出した。 「ちょ、ねぇ!待って!誰!」 「え、メールだってー友達からの」 「違う!そうじゃなくて…その曲、」 「…あーコレ?コレはねぇ、」 やっと分かる。 一気に静まり返る空気なんかこの際どうだっていい、私にはこの曲が何なのか、その答えを知る日が来た事に凄い嬉しくてじっとしてなどいられなかった。 友人も、名前も知らない他の男の子達もどうしたものか、と不思議に思い誰も口を開く事は出来ず、ただ彼の次の言葉を待っていた。 だけど、聞けなかった。だってまさか。 ―ガラッ 「わりぃー仕事長引いたー」 まさか私達の知らない人がこのタイミングで席に現れるとは思ってもみなかったから。 ★:)next... |