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07.どこか貪欲な気持ち



冬の帰り道。
一人で歩いていると決まって思い出すのは阿部先生のこと。
学校以外で逢った事などなくて、特別なにか思い出がある訳じゃないけれど。
いつも身につけていた紺色のマフラーが凄く似合ってたなぁ、と今でもしみじみ思う。
教師としては若すぎる年齢なのに歳相応に見えない立ち振る舞い、言動。お洒落には興味無かったみたいで先生の服装はいつもいたってシンプルで、黒ばかり好んで、だけど様になっていて。
全てが愛おしく思えたりもした。




忘れたくはない、けれどずっと思い返していても何かなる訳ではないって分かってるのに。
私自身、まだそれが出来ない事が痛々しいくらいにわかっていた。


先生が居なくなってから何度冬を越したのだろう。
ふわり、と吹いた冷たい夜風は私の首元の紺を虚しく揺らして。

そしてまた冬が巡る。









―トン、
肩に何かが触れた気がして重い瞼を開けるとうっすらと映るのは見慣れた顔。
ゆっくりと朦朧とした意識を取り戻した頃には周りの人達はもう席から立ち上がっていて、講習を一つ寝過ごしたのだと認識した。

「いつまで寝てんのよ、ほら」
「あー…ありがと、」
「今日は?もう終わりでしょ?」

最近**名前**付き合い悪いんだからー、と軽い口調で淡々と話す友人の言葉にとりあえず欠伸を返した。
そういやゼミ発表用のレポートまだだったなぁ。来週末までなのに。
家に帰ってやらなければいけない事は自分自身が一番分かっている。だけれども今、目の前でにんまり笑う彼女はそうさせてくれない事くらい、嫌でも分かる。

「駅近に、新店オープンしたのよね」
「今日こそは来い、って事?」
「もっちろん。拒否権なんかないよ」
「はいはいー分かりましたよー」

行けばいいんでしょう、と乗り切れない気持ちのまま軽く返事を返した。
本当は行きたくない、乗り気じゃないけど付き合いが悪くなっていってる事への罪悪感で断るに断りきれなかった。







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