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椎名 昴
miss you


「明日も、迎えに行く」

車を降りると同時に、彼が私を見上げて言った。


「…で、でも……」

校門で待たれると結構恥ずかしいんだけど。


「じゃ」

「あ、ちょっと!」


私の返事も聞かずにリムジンは走り出した。
いや、私の返事を聞いたって一緒だ。
あの人は必ず校門にいるだろう。










次の日も、校門にはリムジンが停まっていた。

今日は黒ではなく、白のリムジンだ。
不似合いな高級感が他人の目を引いていた。


私はため息をついてリムジンへ駆け寄ると、後部座席の窓が開き、誰かが顔を出した。




「……………………………………」
つい、足を止めてしまった。

「あなたが、柄園美乃里さんですよね」
窓から覗く美少女。
それは間違いなく、彼の婚約者「唯」さんだ。





「どうぞ、乗って?」
「え?いや…あの…」
「彼の代わりに迎えにきました。彼はいつも私を使う」


私はそこで「ああ」と納得してしまった。
あの身勝手な皇子様のことだ。それもありえるな、なんて。

「出して」
彼女が運転席に向かって言うと、車はUターン。


「え……?」

「美乃里さん、一度お話をしないと」






……え?


これは俗にいう、リンチ…?













車は、あのベイブリッジを渡っていた。
初めて彼に会い、渡った、あの道だ。

ここから高級住宅街へつながっているためか、交通量は都市近郊のわりに少ない。
順調にスピードを上げる白リムジン。
これから何が起こるか想像もつかない。

抱えた鞄の中を見ると、ケータイが光っていた。
発信元は「椎名くん」。


どうしよう。
きっと心配してる。





唯さんの顔色を窺うように見た。


「…どうぞ?とって?」

彼女は彼からの連絡があることを予測していたのだろう。
顎で鞄の中をさした。

「はい………」



震えるケータイをとり、「もしもし」と耳にケータイをあてる。




『…今どこ?』
不機嫌な彼の声。
でもどうしてだろう。
…嬉しい。


「今は、えっと……大丈夫、心配しないで」
『……は?』
彼が理解できないと言わんばかりの声を出す。

『とにかくどこにいるのか教えて』
「いや、あの…」


「あなたは耐えられるの?」


唯さんが私を見て、真剣な声色で言った。


『…その声……、唯?』


「あなたは耐えられる?窮屈なしきたりの中で生きることが」


「…………………」



ケータイを思わず耳から遠ざけた。
唯さんは何を言っているのだろう。

「友達も家族も捨てて、あなたは皇族に入れる?」

唯さんはそう言って、私のケータイをとり、電源を切った。








ベイブリッジを渡りきり、住宅街をゆっくりと走るリムジン。

私は押し黙ったまま、車を降りた。




「さぁ、入って。話をしましょう」

扉を開けられ、歩を進めた。
顔を上げると、豪華絢爛なホール。

…世界が、違う。








“友達も家族も捨てて―――…”



そんなこと昨日、一切考えなかったよ。

“耐えられる?”


耐えれるか、耐えれないかなの?





「さ、こっちへ」

応接間に通され、指示された席へ座る。

「紅茶を持ってきて」
唯さんが一緒にいた付き人に耳打ちした。




彼が好きとか…、もっと一緒にいたいと思うだけじゃダメなの?

「…ダメよ」
心を読まれたのかと思い、はっと顔を上げた。


「彼は……、ダメよ。無理」



無理って言わないで。
昨日、もっと一緒にいたいと思ったのに。






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